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2004年10月7日
【混乱を招きかねない郵政事業の民営化】


  政府の経済財政諮問会議は9月7日、郵政民営化に関する基本方針をまとめた。焦点になっていた経営形態については、2007年4月の民営化後、純粋持ち株会社の下に郵便、郵便貯金、簡易保険、窓口ネットワークの4事業を分社化。2017年までに持ち株会社が郵便貯金会社と郵便保険会社株を順次売却、金融部門を分離する方針を打ち出した。

  ところが今回の基本方針を見ると、完全民営化後の明確な姿が見えないという玉虫色の方針であり、民営化によって資金の流れを「官」から「民」へ変え、経営効率を高めて国民負担を解消するという主旨には、残念ながら程遠い内容といわざるを得ない。

  たとえば、資金の流れを官から民へシフトさせるための前提となる公的金融の縮小シナリオは明示されていないことである。逆に規制緩和を受けた「半官半民」の郵政事業がさらに膨張、民業圧迫を加速させる懸念すらある。一方で、郵貯や簡保の民営化リスクも想定される。

  こうして肝心の民営化後のビジネスモデルが描き切れていないとはいえ、長らく官業だった郵政事業は、形式はどうであれ2007年4月には民営化されることになり、これによって巨大な銀行と生命保険会社が誕生する。

  郵便貯金の2004年3月末時点の残高は約270兆円。これは4メガバンクグループの国内預金残高合計とほぼ互角であり、もちろん世界最大となる三菱東京―UFJグループなど足元にも及ばない"超メガバンク"である。

  一方の簡易保険の総資金量は約120兆円にのぼり、これは日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命の大手4社が束になってようやく上回るという、こちらも超巨大生保の誕生となる。

  今回の基本方針では、すでに預金済み郵貯、契約済みの簡保については、「旧勘定」として引き続き政府保証が継続されるが、民営化後のものは、「新勘定」として政府保証はなくなり、預金保険や法人税も義務付けられる。つまり、新勘定分からは、民間金融機関と同じ土俵に立つことになるわけだ。

  しかし、持ち株会社への政府出資は残り、格付けや信用には絶対的に有利に働く。また、ある程度資金規模は縮小するものの、国営時代に培ってきた国民の信用は果てしなく大きい。とくに、高齢者層や地方ではその傾向が顕著だ。それでなくても、地域金融機関の再編・淘汰はまだ道半ばなのだ。

  また、郵貯の預け入れ限度額(1,000万円)は当面は維持されるが、ゆくゆくは廃止される公算が大きく、それに伴い大口法人預金を受け入れることは容易に察せられ、郵貯の法人顧客の獲得にとって大きな武器になる。従来の郵貯の資金運用先は大半が国債の購入であり、一般的な融資業務は手がけてはいなかった。しかし民営化されれば、いずれは融資業務に本格参入することになる。そうなれば、なにせ全国で28万人といわれる郵便局員の営業力は計り知れず、民間の金融機関にとっては大きな脅威になることは間違いない。

  とくに、中小企業や個人を食いぶちにしている地銀、第2地銀、信金、信組といった地域金融機関にとっては、それこそ死活問題になりかねない。とくに、郵貯が当面の主力業務として位置付けるであろう個人向けの住宅ローン業務は、いまの銀行にとっては数少ない稼ぎ頭であり、この牙城を一気に切り崩されれば、民間金融機関の収益は瞬く間に悪化する。一部には、郵貯の融資・審査ノウハウの問題を指摘する向きもあるが、郵貯が自らのネットワークを駆使して、あらゆる信用情報を入手・活用すれば、ある程度の融資業務は可能であり、民間金融機関にとっては強力なライバルであることに変わりはない。

  一方で破綻リスクも抱える。郵貯や簡保がいくら資金を集めてもその運用がままならなかったり、新規の不良債権の発生という事態もあり得えないことではないのだ。

  新たな郵便貯金銀行が、国債の暴落、予想以上の預金残高減少、あるいは融資・運用における多額の損失発生などの要因によって、経営nに陥らないという保証はどこにもない。

  また、郵貯、簡保などとともに持ち株会社にぶら下がる窓口ネットワーク会社は、他の3事業会社から委託手数料を得て、郵便集配以外の顧客サービス業務を手がけることになるが、郵貯や簡保会社は顧客との接点を持たないという、極めて異例な事業形態が果たして成り立つのだろうか。

  仮に窓口ネットワーク会社が経営危機に陥った場合、今回の持ち株会社組織では他の3事業が共倒れしないという保証はない。また郵便会社の経営が悪化すれば、郵貯や簡保会社へ悪影響が及び、金融不安を招きかねない。こうした事業間のリスク遮断のためには、持ち株会社を避け、早急な全ての事業の分離・独立が不可欠だが、これも明確化されてはいない。

  生保業界にとっても、簡保の民営化は他人事ではない。簡保の保険金限度額もいずれは撤廃される公算が大きく、そうなれば全国津々浦々の郵便局網を活用した営業は既存の生保各社にとって、脅威以外何ものでもないはずだ。それでなくても、生保市場の縮小は決定的であり、外資の攻勢も一段と激しさを増しているなかでの簡保という巨大生保の登場は、一段落している業界地図を再び大きく塗り替えるほどの衝撃となるのは間違いないだろう。


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