Stay hungry, Stay foolish.

アップル社(米)は病気休養中だった最高経営責任者であるスティーブ・ジョブズ氏の辞任を発表した。後任はティム・クック氏が就任した。IT関係者のみならず、スティーブ・ジョブズ氏を世界で最も有名な経営者と考える人は少なくない。あるものは彼を"天才"や"イノベーター"と賞賛し、あるものは"破壊者""独裁者"と罵った。


シリア人学者と大学院生の間に生まれた幼子は、「将来、大学に進学させること」を条件にポール・ジョブズ、クラリス・ジョブズ夫婦の養子とされた。成長した幼子は、やがて、名門リード大学に入学するが、半年ほどでドロップアウトしてしまう。しかし、その大学で出会った哲学やカリグラフィー(西洋書道)が彼の人生を大きく変えた。リード大学は米国でも有数のカリグラフィー教育を実践しており、この時の経験がMacintoshのGUI(グラフィカルユーザインターフェース)や製品デザインなどのデザインコンセプトに大きく影響したと言われている。


その後彼は、高校時代に出会った天才エンジニアのスティーブ・ウォズニアック氏とともに世界最初のパーソナルコンピューターとなるAppleⅠを作成した。AppleⅠは商用的に大きなヒットとならなかったが、後継機のAppleⅡは爆発的なヒットとなり、パーソナルコンピューターという新しい産業を世に生み出した。しかし、彼の人生は順風満帆とはいえなかった。デザインや経営へのこだわりは独善的ともみられ、やがて同社の経営陣により創業者でありながら解任されてしまう。その後、同社は経営危機に陥るが創業者である彼を再び迎え入れ、抜本的な経営改革のもとiMacやiPodなどの製品の成功で経営を安定化させた。そして、コンテンツ配信サービス(iTunes)やスマートフォン(iPhone)という新しい市場を開拓し、現在、同社は米国最大の企業となった。


彼の人生を語るとき、多くの人が彼のように成功したいと思うだろう。しかし、彼の人生を見つめると、出生、失職、病気といった挫折も多い。彼は世界で最も成功したひとりであるが、最も良い環境を与えられたひとりではない。彼の成功の要因を彼自身の多くの言葉から探った時、2つの言葉が印象に強く残る。「So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.(点と点がいつか何らかのかたちでつながると信じなければならない)」そして、「Stay hungry, Stay foolish.(ハングリーであれ、バカであれ)」自分の置かれた環境を卑下しすぎるわけでなく、自分と周囲の出会いである点と点をつなぎ線にすること、また常にハングリーでバカであること、そうした心意気が新しい産業を生み出す原動力になるのではないだろうか。


新しい産業を産むような企業や経営者が少ないと言われて久しいが、日本人のなかで「Stay hungry, Stay foolish.」を実践し挑戦し続けている人はどれくらいいるのだろう。既存の概念にとらわれず、新しい可能性を広げる「Stay hungry, Stay foolish.」精神を私も強く持ち続けたい。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。