ユーロは欧州の意思にかかっている

2010年4月に、財政破たんの危機にあったギリシャが欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に支援要請し、同年5月にEUとIMFが合わせて7,500億ユーロ(約75兆円)の融資枠を用意するという欧州安定化メカニズムが創設された。それから1年半がたった2011年10月3日、EUで通貨ユーロを採用する17カ国がギリシャの財政危機に関する財務相会合を開いたが、それに先立つ9月にギリシャが2011年、12年の財政再建目標が達成できないと表明したこともあり、80億ユーロ(約8,000億円)の第6次支援融資の決定は先送りされた。


ギリシャのデフォルト(債務不履行)は必ず回避するという方針は出されたが綱渡りの状況は続いている。万が一、ギリシャがデフォルトを起こしてユーロから離脱するということになれば、共通通貨ユーロの瓦解につながりかねない。欧州はパリ条約による欧州石炭鉄鋼共同体ECSC(1952年)を皮切りに、欧州経済共同体EEC(1959年)、欧州共同体EC(1967年)、欧州為替相場同盟(1972年)、欧州通貨制度EMSおよび欧州共通通貨ECUの導入(1979年)、欧州連合EU(1993年)と歩を進め、1999年にユーロを決済通貨とし、2002年から流通通貨としてきた。


このユーロ導入のプロセスは基本的に「最適通貨圏の理論」に沿っている。この理論によると、異なる地域で共通通貨を用いることが可能となるためには5つの条件を満たしていなければならない。1)財市場の統合、2)生産要素市場の統合、3)経済構造・実物ショックの対称性、4)金融市場の統合、5)マクロ政策の協調、である。1)はECSCやEECなどの経済共同体、2)は欧州域内における労働者や資本の移動の自由化、3)はインフレ率や財政、金利などの経済的収斂基準の制定、4)は欧州通貨機関の設立、5)は欧州中央銀行の設立や財政赤字基準など、に対応する。


欧州における共通通貨は、2度の大戦の経験からくる政治的情熱と、最適通貨圏の理論というバックグラウンドによって進められてきた。しかし、5つの条件のうち1つでも欠けると共通通貨は維持できなくなってしまう。ギリシャの財政危機は条件3)と5)に関わってくる問題である。ギリシャのEU域内における経済シェアは2.2%に過ぎないが、ユーロから離脱する国が出てくるのではないかという予想を生み出すだけで投機アタックを引き起こしかねず、ユーロ崩壊の可能性も秘める。10月3日の東京市場終値で1ユーロ=100.8円までユーロ安が進んでいることは、その兆候ともいえよう。ただ同理論は、域内で好況の国から不況の国へと財政移転を行い、経済調整を促進させるならば通貨地域は円滑に機能する、ともいう。5)で自国の独立した金融政策を放棄してまで積み重ねてきた欧州の意思が改めて問われている。

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