機能美を有する洗練されたデザインを実践するためには 

アップルのiPhone、ダイソンの掃除機や扇風機、検索エンジンのGoogleなど日本市場でデザイン製の高い海外製品やシステムのシェアが急速に伸びている。日本も負けじと、近年デザイン性を強化した開発に力を入れているが、画期的な商品で世界シェアを席巻するような成功はあまり聞かれない。これらの差は幅広いユーザーの利用を想定したデザイン開発が根底にある。


アメリカにはリハビリテーション法508条がある。この法律では政府機関からの情報を検索やサービスを受けようとする障害者が、健常者に提供されるのと同等に情報やデータにアクセスし、それを利用できなければならないと義務付けている。このためアメリカ政府のすべての機関では、システム新規導入や既存システムの改良を行う場合、同法を遵守する義務を有している。
この法律の背景には、アメリカが幾度となく戦争を経験した悲しい歴史がある。戦争の際、最も障害を持つリスクが高いのは前線で戦闘を行っている若い兵士である。彼らは受障したことで前線を離脱するが、その後の人生設計は変更を余儀なくされてしまう。中途障害は先天障害に比べ、障害の受容、訓練において困難ともいわれ、多くの中途障害者は受障前の生活水準を維持することさえ難しくなるといった現実がある。このため、アメリカでは、国のため戦い傷ついた人々が公的機関の情報を自由に得ることが出来ないということがあってはならないという考えが強い。


また、移民国家であるアメリカでは英語を母語としない国民も多く、事故防止のためのフールプルーフ(誤操作をしても危険がないようにする安全対策)やフェイルセーフ(誤操作・誤動作による障害時に常に安全な方に作動するよう制御する)といった信頼性設計も発達してきた背景も有している。こういった文化的、歴史的特徴はアメリカのみならず、民族が入り交じり、戦争を多く経験したヨーロッパにも根強く、製品やシステムの開発において、ユーザビリティに配慮した機能美としてのデザインを実践していくという意識がある。ひるがえって日本では、こういった意識の遅れが目立つ。ユニバーサルデザインやバリアフリーなどの下さまざまな製品やシステムが開発されたが、その多くは健常者を対象とした製品に比べ性能やデザイン性が劣っていたり、デザインが秀逸であっても高額で利用が促進されないといった問題が散見される。


製品やシステムの開発においては、ユーザーテストが重要になる。欧米では、開発時のユーザーテストは初期の段階から幅広いユーザーの利用行動を観察し開発を行うことで機能美を有する洗練されたデザインを形成していく。一方、日本ではユーザーテストは製品完成の確認時のデバッグ(バグ・欠陥を発見および修正し、動作を仕様通りのものとするための作業)が中心に行われ、開発初期にユーザーの利用行動を観察することが少ない現状がある。


優れたデザインを実現するためには、幅広いユーザーが大きな負担を持たず利用できることを想定するような、ユーザー本位の開発を行うことが重要であろう。それを実践していくことは物作り大国の復古につながるのではないだろうか。

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