原発稼働ゼロにおける議論とは

2012年5月5日、北海道電力泊原発3号機が発電を停止し、日本は42年ぶりに稼働している原発がゼロとなった。史上初の原子力発電は1951年にアメリカで行われ、実用としては1954年のオブニンスク原子力発電所(ソ連)で開始された。日本では、最初の発電が1963年に茨城県東海村の実験炉で行われ、1965年に東海発電所で発電開始、商業用原子炉のさきがけとなった。


現在、今夏の電力需要ピーク時における供給問題が議論されているが、議論がかみ合っているとは言いがたい状況である。論点をいくつか挙げてみると、第一に、今後のエネルギー政策をどう考えるかということである。2010年6月に閣議決定した「エネルギー基本計画」による2030年までに14基以上の原子力発電所を新増設し、原発輸出を推進するという方針はいまも続いており、原発事故から1年以上が経過した現在においても政府からは新たなエネルギー政策に対する方針が示されていない。


第二に、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働問題である。再稼働問題は四国電力伊方原発3号機も控えている。現在の議論の方向は、原発を再稼働しなければ夏のピーク時に電力供給不足に陥る可能性があるため再稼働が必要だ、というものである。しかし、電力需要のピークを過ぎた秋になると再び原発を停止するのだろうか、という素朴な疑問が浮かぶ。


第三に、脱原発に対する議論である。発端は東日本大震災による福島第一原子力発電所事故であるが、宮城県にある女川原発では比較的安全に自動停止した。また、今回、定期点検で停止した泊原発は2009年に運転を開始した世界的にも最新型であるのに対して、福島第一原発は1971年という非常に旧型の原発施設である。原発技術も日進月歩を遂げており、これらを十把一絡げに考えていいのだろうか、という疑問が残る。


第四に、原子力技術は発電だけに使われている訳ではないということである。とりわけ、医療分野では重要な位置を占めている。原発を廃止した場合、日本から多くの原子力技術者が失われる懸念があり、医療水準の低下は避けられないとみられている。
第五に、安全と安心は異なるという議論である。いくら技術的に安全であっても、運用面での信頼がなければ安心できない、という心情は合理的であろう。しかし、両者がきちんと峻別されているかというと、心許ないところがある。


そのほかにも多くの論点があるが、議論が混迷している背景として、正確なデータと将来のエネルギー戦略が示されていないことが大きな要因になっていると思料する。帝国データバンクが2012年4月に実施した「2012年度の業績見通しに関する企業の意識調査」によると、企業の22.4%で夏季の電力不足が業績見通しを下振れさせる要因になると答えている。政府は「電力供給体制の安定化を切に望む」(骨材・石工品等製造、千葉県)といった意見が規模の大小を問わず発せられていることを経済界からの切実な声であると受け止め、今後のエネルギー戦略を早急に打ち出すべきである。

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