駆け込みと反動減、企業の知恵と工夫がカギ

4月1日に消費税率が8%に引上げられた。1997年4月以来17年ぶりのことであるが、今回も大きな駆け込み需要がみられた。昨年5月の比較的早い段階では建設や不動産に集中していたが、その後は建材製造・卸売や家具、インテリア、建築設計などの建設に関連する業種へと拡大。昨秋からは自動車や家電など高額の耐久財が加わり、3月には食料品や日用品などにも広がりピークを迎えることとなった。


消費税率引上げが消費に与える効果は大きく分けて2種類存在する。1つは物価の上昇を見越して、消費税率引上げ前に消費を前倒しする効果(代替効果)であり、もう1つは実質所得の低下によって消費水準を低下させる効果(所得効果)である。代替効果を大きくする主な要因には、1.耐久性の高さ、2.税率の上昇幅、3.低い実質利子率、の3点が挙げられる。他方、所得効果に影響するのは実質所得と弾力性、消費性向、消費マインドである。したがって、代替効果が所得効果を上回るときに大きな駆け込み需要が発生するのである。


一方で、駆け込み需要は"本来は将来発生するべき需要を先食いしたものに過ぎないため長期的には相殺されてしまう"と言われることがある。しかし、平均的にみると完全に相殺されない事例が多く観察されている。たとえば、税率変更に過剰反応する効果もあれば、税率変更の記憶が薄れる効果もあり、これらは行動経済学の分野で研究されている。特定の商品のキャンペーンなどはこの追加的な効果を狙っているといえよう。


今後は駆け込み需要に対する反動減をいかに抑えるかが最大の焦点となる。参考として、前回の消費税率引上げ時(1997年4月)を振り返ると、酒、衣料品・履物、家具・家電、教養娯楽などで増税前後で支出が増減する動きが目立っていた。特徴的なのは、これらのなかで時間が経過して支出が回復する品目もあれば、支出がその後も低迷する品目に分かれることである。
反動減が懸念されるのは、一般的に衣料品や教養娯楽用耐久財(テレビ、パソコンなど)、教養娯楽サービス、家具、寝具、自動車、外食など、所得弾性値の高い品目である。消費税率引上げにより実質所得が減少することで、これらの分野での需要抑制が起こる可能性が懸念される。


また、消費税率引上げにあたっては、低所得対策をしっかり行う必要があるが、これは往々にして消費税の逆進性対策の観点からの政策対応である。実際、1997年には高所得層での駆け込み需要が目立った一方、消費税率引上げ後は低所得層での支出抑制が顕著であった。今回も低所得対策として、4月から臨時福祉給付金や子育て世帯臨時特例給付金などの現金給付措置が実施される予定であり、消費税増税後の落ち込みを下支えする効果が期待される。


さらに、反動減を解消するために企業によるさまざまな新商品や新サービスの投入が期待される。1997年での事例をみると、それまで過度のアルコールは健康に良くないとされていたなかで赤ワインに含まれるポリフェノールを摂取することで心臓病を抑制し、動脈硬化や脳梗塞を防ぐ作用を向上させるという情報が広まり、赤ワインの売り上げは爆発的に伸長した。また、一部で駆け込みが発生していたDVDプレーヤーでも、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のDVDが発売されたことで、売り上げを大きく伸ばすことができていた。いずれも、それまでの常識を覆す視点での組み合わせだったり、ハードとソフトという補完業種の組み合わせにより増税後も業績を伸ばしてきたのである。やはり、最後は企業の知恵と工夫が最大の消費の落ち込み対策といえるだろう。

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