むずかしいことをやさしく

新入社員が入り、はや1カ月。今年の大卒新入社員もバブル崩壊後のゆとり世代である。とかく○○世代と区分されて迷惑なところもあるだろうが、生まれ育った時代背景は、その世代の人生観に影響し、さらには、その価値観が企業社会を構成する一因となるという観点からすれば致しかたない。


今年の大学入試センター試験からは、出題内容は脱ゆとり教育の対応となった。今後、脱ゆとり世代の就職先の受け皿となる企業は、同世代の新卒が入社した後のカリキュラムの準備ができているのだろうか。そもそも現在のゆとり世代向けのカリキュラムが組まれているのか疑念が残る。企業理念という名の価値観の押し付け、これまでの成功神話の踏襲で生き残れるのだろうか。


採用において計画どおりの人材と人数をまかなったとしても、採用した人材が長続きしなければ意味がない。2015年春卒業の大学生の就職率(4月1日時点、厚生労働省・文部科学省 発表)は、前年比2.3ポイント改善の96.7%と4年連続で改善している。景気回復による企業の雇用意欲の増加が背景にあり、売り手市場となっている。他方、大卒新入社員は3年以内に3割が退職(厚生労働省調べ)という現実は、学生と企業のミスマッチを表している。


企業は、得意先の開拓にあたっては、その対象について知ることに力を入れるが、社内の人材育成に対して、どこまでその背景を理解した上で接し、相応の人材教育のカリキュラムを作成しているのだろうか。現場での新人教育にあたっても、自分がわかっている言葉ひとつひとつが、果たして理解されているのか。一言一句の反応を見ながら、きめ細やかなコンタクトが必要になる。「どこがわからないかが、わからない」ということのないように、確認しながら、立ち止まりながらの教育が必要だ。


直木賞作家であり、劇団こまつ座の座長でもあった井上ひさし氏の持論「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをいっそうゆかいに」には、伝えること、教えることのヒントがある。なぜこの仕事が必要なのか、この仕事をする目的を伝えながら、相手に興味を持ってもらうよう工夫すること、相手に愛情を持って接することである。


学習要領が脱ゆとり教育となった世代が大学に入学した2015年、少なくとも、この学生が大卒入社となる今後4年間は、新卒社員を受け入れる企業もゆとり世代に合わせた研修方法や育て方について、一考する必要があるだろう。

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