アベノミクス「新三本の矢」?

9月24日、安倍首相が発表した「新三本の矢」。これは本当に"矢"なのか。端的に言うとこれは"的"と呼ぶのがふさわしい。


首相の記者会見を見た国民の多くは、唐突感を否めなかったのではないだろうか。「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言して発表されたのが、1)希望を生み出す強い経済、2)夢をつむぐ子育て支援、3)安心につながる社会保障、の「新三本の矢」である。


それぞれの"矢"が示す意味は、

 1)2020年の名目国内総生産(GDP)を600兆円とする
 2)現在1.4程度の出生率を1.8まで回復させる
 3)家族らの介護を理由に退職せざるを得ない「介護離職」をゼロにする

としており、今後はこれらを実現する具体策に移ることになる。


しかし、どうにも違和感がぬぐえない。「旧三本の矢」はどこに行った?という疑問である。「旧三本の矢」は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の3つである。最も効果を発揮したのは日銀と連携した量的・質的金融緩和であろう。また、財政政策は国土強靭化として進められた。特に最も期待されながらも成果が見られないのが、第3の矢の成長戦略である。


そのため、「旧三本の矢」の成果を見出せないまま、「新三本の矢」を公表したことになり、「成長戦略が先だ」という批判に直面する結果となっている。しかしながら、「新三本の矢」で掲げられている項目自体に反対する見方は少ないのではないだろうか。


我々が受けた違和感の正体はこれらの政策を"矢"としたことにある。したがって、「新三本の矢」は、「旧三本の矢」の成長戦略が放つ矢の"的"として捉えると、すっきりする。


つまり、「旧三本の矢」と「新三本の矢」のつながりが分からない形で発表したことが、より大きな問題と捉えなければならない。為政者は、政策をどのように伝えるかによって、その政策が成功もすれば、失敗もすることにもなると肝に銘ずるべきであろう。

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