マイナス金利導入のインパクト

1月29日、日本銀行は金融政策決定会合で「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定した。これを受けて株式市場や為替市場などは大きく上下したが、マイナス金利導入は市場関係者にもサプライズを与えた金融緩和策だったといえよう。


今回の決定のポイントは、政策手段としてこれまでの「量」と「質」を保持したうえで、マイナス金利という「金利」を加えたことである。今後は、これら3つの政策手段を駆使して金融緩和が進められていくことになる。


日銀が導入したマイナス金利政策は、金融機関が保有する日銀当座預金に-0.1%の金利を適用し、今後も必要に応じて金利を引き下げるとし、また理論的には下限もない。具体的には、日銀当座預金を3段階の階層構造に分割し、それぞれの階層に応じて+0.1%、0%、-0.1%の金利が適用される。


現在、マイナス金利は欧州中央銀行(ECB)のほか、デンマーク、スウェーデン、スイスといった欧州で導入されている。日銀は、マイナス金利の導入にあたり、3層構造による仕組みを取り入れるなど特にスイスの事例を参考にしているとみられる。


基本的には、マイナス金利は日本銀行と金融機関の間における金利であるため、直接的に企業向け貸出金利や個人の預金金利に結びつくものではないが、金融市場での金利低下を通じることによって企業向け貸出の増加や住宅ローン金利を押し下げる効果が期待される。また、すでに積み上げられている日銀当座預金残高に対しては従来通りの金利を適用することで、金融機関の収益が大きく損なわれることのないような配慮も組み込まれている。


しかしながら、マイナス金利政策が長期間にわたり実施された場合には、金融機関は融資利ざやの縮小など収益への負担が高まりリスクを取りづらくなる。その結果、貸出先の選別強化を進めたり、収益源を確保するために手数料の引き上げなどが実施される可能性もある。また、スイスでは、導入当初は住宅ローン金利が下がったものの、その後は住宅市場が過熱し、住宅ローン金利が急上昇したという事例もある。


一般に、金融引締時には市場に十分な情報を提供しつつ緩やかに進める一方、金融緩和時には大規模にサプライズを与えて実施することでより効果的なものとなる。今回、日銀の政策委員会は賛成5反対4というギリギリの状態でマイナス金利の導入を決定した。とはいえ、マイナス金利の導入は、20年にわたり続いてきたデフレから脱却するという強い意識の表れでもあり、いわば金融政策におけるイノベーションとも言えよう。市場には大きなインパクトを与えることに成功したが、今後はそれぞれの企業にどのような影響が及ぶかしっかりと見極めていくことが重要である。

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