「終わり」か「始まり」か、仮想通貨"狂騒"曲

日本円で約580億円にのぼる顧客資産の仮想通貨が、不正アクセスを受け流出した―このニュースが速報で流れると、インターネット上では仮想通貨市場が一時パニック状態に陥り、SNSでは個人投資家の怨嗟の声や怒号で溢れかえった。流出したのは、当時国内大手の仮想通貨取引所「コインチェック」が保有する仮想通貨「NEM(ネム)」。同社によれば、顧客資産として保有していた約5億2,300枚のネムが、海外からの不正アクセスによって全額流出したという。この規模は、仮想通貨取引所としては2014年のMTGOX事件を上回り、史上最大の仮想通貨流出事件となる見込みだ。


この事件による被害者は約26万人。芸能人からサラリーマン、はては高校生に至るまでコインチェック社を通じて仮想通貨を保有していた。もともと、仮想通貨は多くの飲食店などで決済方法の一つとして段階的な普及を見せていたこともあって、仮想通貨の利用者は一定数存在していた。しかし、ここまで被害者の規模が拡大したのは、仮想通貨がひとえに「投機的商品」として広まり、一般投資家が大挙して市場に参入してきたことも要因の一つだ。仮想通貨の代表格「ビットコイン(BTC)」は、17年初頭の1BTC=10万円から年末には一時220万円を超え、20倍以上の暴騰を記録した。こうしたボラティリティの高さも、株に変わる投機対象として仮想通貨が魅力的に映る。


一般に、株は企業の事業や将来性を評価して売買され、市場価値が決まる。一方、文字通りインターネットという"仮想空間"で取引される仮想通貨は、あるインターネット識者によるとバブル期の「ゴルフ会員権」に例える事が出来るという。双方とも、仲介業者が値を出すと取引が開始されるという特徴があり、投資・投機の対象として、明確な裏付けがないまま多くの投資家に注目されて相場が急騰したという点も、仮想通貨と共通する点が多い。


しかし、ゴルフ会員権と仮想通貨が明確に異なるのは「仮想通貨そのものに"実体"としての価値が無い」こと、インターネット空間での通貨であることから、「セキュリティ問題が常に付きまとう」という点だ。コインチェック社の一件は、同社による仮想通貨の保管方法に問題があったと見られ、改めてサイバー攻撃による取引所の盗難リスクが存在する事が浮き彫りになった。仮想通貨は利便性が高く、日本国内でも普及しはじめてきただけに、今回の騒動は成長途上の仮想通貨市場に冷や水を浴びせる格好となった。しかし、同時に今後、仮想通貨がどうすればより利便性を高めつつ、不正アクセスに対する安全対策を講じられるべきなのか、という課題に気付くきっかけにもなっただろう。

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