マクロ経済政策における目標設定

4月27日、日本銀行は金融政策決定会合を開催し、現在の金融緩和政策を継続することを決定した。前回1月と比べて、2019年度までの経済成長率をやや上方修正しつつ、物価見通しは概ね変わらないとした。


しかし、今回から大きく変わったことがある。インフレ率2%の「物価安定の目標」に対する達成時期を公表資料から削除したことである。


具体的には、日銀が金融政策決定会合の内容を説明する「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)において、1月は「今回の物価の見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い」と記述し、目標の達成時期を明記していた。


これに対して、4月の展望レポートでは「2019年度までの物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。」という記述にとどまり、後半部分が削除された。


この記述箇所を巡っては、日銀は物価見通しの経路を記述していたものであり、目標を書いたものではないという見解を示してきた。他方、市場は目標達成の期限と捉えていた。そのため、記載された年次に近づいたり、先延ばしされると、市場関係者から一段の金融緩和への期待が高まり、金融市場の不確実性を高める要因ともなってきた。そこで、当該記述を削除し、両者における見方のギャップをなくしたいという日銀の意図は理解できる。


多くの中央銀行では金融政策に目標期限を設けておらず、その意味で日銀の見解は中央銀行として標準的な見方であろう。そのため、2013年4月の異次元緩和開始当初から物価安定の目標を「できるだけ早期に」という表現を用いてきたことは、概ね一貫しているといえる。しかし、その際「2年程度の期間を念頭に置いて」という文言も併せて公表した。


企業や個人などが目標を設定する場合、同時に達成時期も掲げるのではないだろうか。そのため、多くの人が2013年の"2年程度の期間"という日銀発表を目標期限と解釈したのも自然なことである。


これら両者の認識のズレは「企業や個人が日常的に考える目標設定と、マクロ経済政策における目標設定は異なる」という、置かれている立場の違いから生じている可能性がある。


そうであれば、一般の企業や個人にこれらの違いを説明する責任は日銀側にあるといえよう。現在の金融緩和政策は従来とは異なる非伝統的政策からスタートした。日銀がテレビやラジオ、あるいはインターネットなど顔の見える映像や音声を通じて、直接的に金融政策をもっと国民に語りかけることがあってもいいのではないか。情報発信の方法も従来型の伝統にしたがう必要性はないはずだ。

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