もっと働ける環境の可能性

総務省統計局は5年に1度、就業構造基本調査を発表している。国民の就業及び不就業の状態を調査し、全国及び地域別の就業構造に関する基礎資料を得ることを目的としている(ちなみに、月次や四半期の調査としては労働力調査がある)。当調査では、平成29年に新たにいくつかの調査事項を追加した。そのひとつに、非正規雇用者に対し「収入を一定の金額に抑えるために就業時間や日数を調整していますか」というものがある。


結果から述べると、非正規雇用者のおよそ4分の1を占める26.2%が調整をしていると回答した。女性が83.0%を占めており、そのうち50~99万円と100~149万円の所得階級では87.2%にのぼった。これに加え、新設された質問ではないが、「現在より就業時間を増やしたいと思っているか」という問いに対しては8.8%が「増やしたい」と答えている。


このような「今よりもっと働きたいと考えている人」が今以上に働くことができるようになれば、近年急速に色濃くなっている人手不足の緩和に効果があるのではないだろうかと感じた。ここに該当する女性は夫の所得に合わせてギリギリの額まで収入を得たいと考えている層が含まれるはずである。加えて、前述した「現在より就業時間を増やしたいと思っているか」に対して「今のままでいい」と答えた割合は76.0%だが、この層には収入を抑えているが既に働くことが可能な水準まで働いている人も少なからず含まれるであろう。そのため、実際は8.8%以上の人は就業時間を増やしたいと考えているのではないだろうか。


私が学生時代に飲食店でアルバイトをしていた際、同じ職場で働いていた主婦のパートタイマーの方が「もっと働きたいけど金額面の制約はどうしてもあり、その点に悩んでいる人は多い」と言っていた。その方は職場では必要不可欠な存在であるにもかかわらず就業時間や日数を減らさざるを得ない状況だった。今以上に働くことができる状況が整備されれば、企業にとってもパートタイマーなど短時間労働者にとってもプラス材料になるはずだ。


2017年の税制改革において、配偶者特別控除の額は103万円から150万円へ引き上げられた。一方で、社会保険料を負担しなくても良い収入の上限となる130万円や、所得税の非課税対象となる103万円は維持されたままであるため、現状では就業時間の増加に繋がるとは断言できない仕組みとなった。例えば年収が140万円の場合、150万円には収まるものの130万円を超えてしまうため社会保険料の負担が生じてしまう。そのほか考慮に含めるべき項目は数多くあり、給与所得者だけでなく経営者にとっても複雑でわかりにくい。もっと働くことができる環境をつくる一手として、今以上にわかりやすい制度の構築が求められるだろう。

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