新型肺炎~債権市場にも波紋を呼ぶのか~

新型肺炎の感染拡大が世界各国の経済に影響を及ぼしている。


日本をはじめ、各国で中国人観光客が減少し、インバウンド需要が急減するのは無論、中国での消費活動の縮小、工場再開の遅れによるサプライチェーンの混乱などが中国経済のみならず、世界経済に波及している。そんな懸念の広がりを背景にニューヨーク株式市場から資金が引き上げられ、債券市場に流れ込んだ結果、米国金利は大幅に低下した。それを受けて、安全資産としての円を買う動きが強まり、2月24日以降為替レートが円高ドル安に転換するなど、市場は動揺している。


そうしたなか大手格付け会社のS&Pグローバル・レーティング(S&P)は、新型肺炎拡大による経済への影響を相殺するために政府が過大な景気刺激を行う場合に中国の国債格付けを引き下げると公表した。債権市場にも波紋を呼んでしまう恐れが現れてきたのだ。


そこで、もし本当にそのような事態になったら、日本にはどんな影響があるだろう。格下げされた後、中国人民元は売られ下落することが想定される。また、中国株価も下がることにより、東京市場の株価が下がることに加え、円高も進むだろう。ただし、2017年の大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(ムーディーズ)による中国国債格下げの例によれば、日経平均株価の上げ幅は縮小したのみで、影響は限られた。


さて、感染の広がりにより既にさまざまな業界で影響を受け、景気の悪化が見込まれている日本において、国債が格下げされるリスクはあるだろうか。実際、大手格付け会社フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2月2日に新型肺炎の流行により、日本経済に下振れリスクが浮上したと公表した。


しかし、そもそも格付け会社は国債の格付けをする際、その国の経済や財政のみならず、債務を遅滞なく全額返済することに影響を与えうる他のあらゆる要素も考慮に入れるのだ。例としてS&P、ムーディーズ、フィッチとも、「経済」「財政」に加え、「政治」「対外」、そして「金融」に関しても評価を行っている。日本において、政府債務残高は高水準だが、豊かな経済や安定な政治、強い対外ポジション、安全逃避通貨としての円の役割などが大手格付け会社に高く評価されている。したがって、新型肺炎の影響のみでは日本国債が格下げされることは考えにくい。ただし、経済成長率の大幅な低下に加え、財政健全化の取り組みの停滞という事態が発生すれば、格下げから逃れることは難しくなってくるだろう。

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