通勤電車に混雑緩和の兆し

2020年7月、JR東日本(東日本旅客鉄道)は、社長定例会見でピーク時間帯の運賃を引き上げるなど時間帯別の新たな運賃体系を検討していることを明らかにした。また、JR西日本(西日本旅客鉄道)も同様な検討をしていると発表。


通勤電車のピークロード・プライシング導入も近いかもしれない。新幹線や有料特急電車などでは、既に閑散期や繁忙期で指定席の料金は異なっている。新型コロナウイルスが契機となり、これまでは難しかったことが実現するきっかけになりそうだ。


通勤時間帯の鉄道利用者の多くは、勤め先の就業開始時間が概ね8時~10時に集中しており、出社時間を自由に変更し、混雑を避けることが難しい。さらに、通勤定期券は、多くが勤め先の負担となっており、運賃の変化に対して労働者が出社時間を大きく変えることはないだろう。


このようなことから、仮にピーク時間帯の運賃を上げたところで、企業の積極的な協力がなければ満員電車の緩和に大きな影響を与えないと考えられていた。


しかし、この新型コロナウイルスにより、多くの労働者の働き方が半強制的に変化、働き方が柔軟になってきた。在宅勤務者や時差出勤者が増え、鉄道の利用頻度も変化している。加えて、感染拡大防止のため、可能な限り「3密」を避ける意味でも、いままでのような一様な出勤スタイルから変化が求められている。


そのようななか、時間帯別に運賃を変動させると、企業としてさらに朝のピーク時間を避けた勤務体系を取り入れやすくなるほか、利用に応じた通勤手当の支給も選択肢として出てくるだろう。結果として、鉄道の利用者が分散し、満員電車の緩和がみえてくる。


今まで解消されなかった通勤電車の混雑が緩和されることによって、通勤時間帯に電車を利用する労働者の多くがこのストレスから解放されることになる。また、首都圏で満員電車による経済損失は年間で3,240億円以上になるという試算結果 が出ていることを踏まえても、混雑が緩和することで、企業もプラスの効果を享受できるはずだ。


図らずも新型コロナウイルスの感染拡大が転機となり、通勤電車の混雑が解消される可能性が高まってきた。明るい兆しとして、困難と思われていた問題が解決されることを期待したい。

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