"まち"を形成する上で大学生は重要なファクターである

2020年8月に厚生労働省が発表した人口動態統計(速報)によると、2020年1~6月の出生数は43万706人となった。過去最少を記録した2019年の同時期と比較して8,824人減少と、出生数のさらなる減少が危惧される。また、「2018年問題」といわれた18歳人口の減少も際立っており、1998年では約162万人いた18歳人口は、2018年では約118万人とこの20年間で約40万人以上減少している。


少子化の進行が顕著となるなか、各大学では近年、郊外に立地するキャンパスを都心部へ移転する動きが活発になってきている。2020年8月25日にも、立命館大学は滋賀県と京都府にあるキャンパスのうち2学部2研究科を、2024年4月に大阪いばらきキャンパスへ移転すると発表した。


大学が都心部へ移転するメリットは、一番は学生の確保と言えよう。前述したとおり18歳人口は減少しており、大学における学生獲得は重要な経営課題となっている。郊外部にあるキャンパスより交通環境が良く、様々な情報に触れられ、繁華街が多くある都心部は、大学生活を過ごすうえで、魅力的に映る。また、一部の大学ではこれまで学習環境の良い郊外キャンパスは低学年、専門性の高い都心キャンパスは高学年がそれぞれ所属していたが、キャンパス移転により学生間の接点が増加することによる教育環境の向上も期待できる。


他方、大学が移転してしまった"まち"にはどのような影響があるのだろうか。今回、立命館大学の学生約2,400人が移転することで、びわこ・くさつキャンパスがある草津市長は「多大な社会的、経済的な影響があり、受け入れがたい」と異例の声明を発表した。このことから分かるように、学生がいなくなることで地域経済に大きな影響及ぼすことが考えられる。大学近郊の飲食店やスーパーマーケットなどでは需要が減少し、アパートなどの不動産賃貸も価格低下は免れない。アルバイトなど若い働き手もいなくなるため、街の活気も減退してしまう。さらに、学生と市民との交流も減少することで、行政の政策面での転換も求められる。


地域経済への影響だけでなく、地域の魅力、人材育成、文化水準の向上を考える上でも、学生というパワーは非常に重要であり、大学が移転することは大きな衝撃となろう。


近年の大学移転は、大学の経営上、教育の質向上などを考えると避けられないのかもしれない。しかし、数千人規模の学生が一度にいなくなることは、地域経済のみならず、その地域の魅力の低下にも直結してしまう。改めて"まち"を形成する上で学生は非常に重要であると認識するとともに、仮に大学移転が生じる際は、地元行政・立地企業・住民、移転する大学を踏まえた4者で、次の"まち"のあり方を探っていくことが肝要となる。

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