訪日外国人の大幅減について思うこと

日本政府観光局(JNTO)によると、2020年の訪日外客数(以下「訪日外国人」とする)は約412万人となった。新型コロナウイルスの影響により、日本でも入国制限が厳しく設けられ、2019年の約3,188万人と比較すると約9割の大幅な減少を記録した。政府は同年4,000万人の受け入れを目標としていたが、わずか1割程度にとどまった。


訪日外国人の旅行消費額をみると、ここ数年増加傾向にあり2019年は4.8兆円にまで拡大をしていた。しかし、2020年は1~3月時点[1]で約7,000億円、加えて4月以降はほとんど訪日外国人が来ていないため年間の消費額は大幅に低下しているだろう。旅館・ホテルといった宿泊業界や観光地における小売や外食業界、加えて旅客輸送業界は、2019年と比較すると極めて厳しい経営環境であったと推察される。


一方で、訪日外国人の年間推移をみると、少しだけ希望の光がみえる。


2003年、小泉首相(当時)が提唱した、2010年に訪日外国人を1,000万人にして観光立国を目指す構想を受けて、訪日外国人旅行者の増加を目的としたプロモーション事業であるビジット・ジャパン事業がスタートとした。リーマン・ショックや東日本大震災の影響を受けて訪日外国人の増加ペースがやや鈍化したが、2013年に1,000万人、2018年には3,000万人を突破した。しかしながら推移を見返すと、ビジット・ジャパン事業開始当初の訪日外国人は約521万人。約412万人となった2020年と比較すると100万人程度の差である。20年ほど前までは、同程度の訪日外国人しか訪れていなかったことを考えると、観光に関係する企業にとっては、この瞬間は非常に厳しいものと言えるが、そこまで悲観しなくてもよいのではないだろうか。

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なぜなら、ビジット・ジャパン事業の開始から約15年経過し、2018年に初めて訪日外国人が3,000万人を突破した。裏を返せば、約15年で整備されたハード面・ソフト面、双方のインフラが既に存在していると言える。充実したホテルや観光施設、LCCをはじめとする航空ネットワーク、多言語に対応したパンフレットやサイト、外国人旅行者に柔軟に対応できる日本人スタッフ、国同士のつながりなどといった多岐にわたるインフラを活用できれば、数年での訪日外国人旅行者の復活も可能ではないだろうか。


もちろん新型コロナウイルスの感染という不確定要素もあるが、マイナスに捉えるだけでなく既にあるハード・ソフト面を踏まえて前向きに考えることも必要であろう。


[1] 国土交通省観光庁「訪日外国人消費動向調査 2020年1月~3月期」。なお、2020年4月以降、同調査は新型コロナウイルス感染症の影響により中止となっている
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