半導体不足に追い打ちをかけるルネサス工場火災の影響

世界的に半導体の不足が叫ばれるようになって久しい。半導体の不足による影響はサプライチェーン全体に幅広く及んでいるが、特に影響が大きいのは自動車業界であろう。2021年に入り、トヨタやホンダなどの大手自動車メーカーで、車載用半導体の供給不足により減産の見込みとの報道が相次いでいる。そのようななか、政府は1月26日、台湾当局に対し半導体の増産に向けた働きかけを行っていることを明かした[1]。


また、日本だけでなく海外でも半導体の不足による影響は深刻化している。バイデン米大統領は2月24日、半導体や電池、レアアースなど重要部材のサプライチェーンを見直す大統領令に署名した。アメリカでは、2月中旬にテキサス州を襲った大寒波による停電の影響もあり、半導体だけでなくプラスチック部品の工場の稼働も止まり、サプライチェーンの混乱が深刻化している。ゼネラルモーターズやアメリカに工場を持つ日系の自動車メーカーでは、このような自動車部品の供給不足によって、生産ラインの稼働を停止する工場もみられる[2]。


半導体の供給不足の背景には、米中の対立が根本にある。昨今の半導体の生産は、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)といった自社で半導体の開発や設計は行わず他社で開発・設計した半導体の製造を請け負う、いわゆる「ファウンドリ」と呼ばれるメーカーのシェアが高い。


2020年12月18日、米国商務省産業安全保障局は、中国の半導体ファウンドリ最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)など77の外国事業者を輸出管理規則に基づくエンティティー・リスト(EL)に追加したと発表した[3]。ELに追加されたことで、SMICへの半導体製造装置などの米国製品の輸出は原則不許可となった。こうした要因も相まって半導体生産がTSMCへ集中した結果、供給がひっ迫することになったのである。


このようななか、ルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で3月19日に発生した火災の影響は、半導体の不足が続く現状をより一層深刻化させると懸念される。


帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」[4]では、BCPを「策定している」「現在、策定中」「策定を検討している」企業において、事業が中断するリスクに備えてどのようなことを実施・検討しているかを尋ねている。『製造』では、「調達先・仕入先の分散」(50.3%)や「代替生産先・仕入先・業務委託先・販売場所の確保」(32.4%)といった、サプライチェーンの再編に関連した項目が、他の業界と比べて高くなっていた。しかし、半導体のように特定の企業の市場集中度が高い部品については、「調達先・仕入先の分散」や「代替生産先・仕入先・業務委託先・販売場所の確保」は容易ではない。


今後のサプライチェーン全体を見通すうえでは半導体だけでなく、原油や鉄スクラップなどの原材料価格の高騰、円安ドル高傾向がみられる為替レートの状況も注視しなくてはならないだろう。また、スエズ運河でのコンテナ船座礁の影響が懸念されるなか、海上コンテナの不足および輸送費の高騰も依然として続いており、その動向にも目を光らせる必要があろう。


[1] 梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要(1月26日)
https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2020/20210126001.html

[2] JETRO ビジネス短信 「北米での自動車生産が相次ぎ停止、半導体不足や寒波が影響(米国、カナダ)」

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/03/bc2b512f5f5e2025.html

[3] JETRO ビジネス短信 「米商務省、中国半導体最大手SMICなど77の外国事業体を輸出管理対象に追加(米国、中国)」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/12/3b5cf8cc5df25f3d.html

[4] 帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2020年6月11日発表)
https://www.tdb-di.com/special-planning-survey/sp20200611.php

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