クールジャパンの芽を摘むな

東京都の青少年健全育成条例改正案にクールジャパンをけん引するアニメやゲーム、出版などのコンテンツ業界が猛反発している。条例に対しては日本ペンクラブや東京弁護士会、有名漫画家や出版業界の幹部が「規制の範囲が広がり、表現の自由を侵害する」と反対を表明している。また、この条例に抗議する形で主要漫画出版社など10社は、東京都などが主催し3月に東京展示場で行われる東京国際アニメフェアへの参加を拒否すると発表。参加を拒否した主要漫画出版社を含む団体などを中心に東京国際アニメフェアの開催日と同日に千葉の幕張メッセでアニメコンテンツエキスポを行うと発表した。


事態が混乱している主な要因は、二点ある。一点目は「規制対象が曖昧でわかりにくい」という条例自体に関するもの、二点目は知事や副知事、議員などの発言による混乱である。
条例では、「漫画、アニメーションその他の画像で、刑罰法規に触れる性行為」と近親相姦を「不当に賛美し又は誇張するように、描写し、又は表現する...」を規制対象とする部分がある。しかし、刑罰法規に触れる性行為は青少年保護育成条例違反なども含まれると考えられ、18歳未満との性行為が規制の対象になるといった見解も一部でされている。このため、作品における表現を著しく狭める可能性があるとされている。ここで可能性と言及しているのは条例で規制対象となる表現が極めて曖昧な状態となっており、実際の認定や運用もどのように行われるのか不明瞭なためである。
さらに、混乱に拍車をかけたのは、宗教や神話、古典、手塚治虫などの漫画などには未成年に対する性行為、あるいは近親相姦が表現されているものもあるが、その場合はどうなるのかといった質問に対し、東京都の関係者が「出版社は傑作なら喜んで原稿を受け取る。条例なんて、そのつぎの話。まずは傑作を書いてから心配すればよい。傑作であれば、条例なんてないも同然。」といった発言などがあったことである。


しかし、名作や傑作という作品の判断をどのように行い、誰が決めれば公平なのかといったことは現在明確にはされていない。そもそもこの類の議論はどのような社会、時代においても明確な答えを出すことは極めて困難である。美術史に照らし合わせても、モネやルノワールのような印象派絵画は、写実性が乏しいとして当時のパリの芸術アカデミーの公式展覧会であるサロンには受け入れられなかった歴史がある。また、日本芸術の代表ともいえる浮世絵も、当時は海外へ輸出する陶器の包み紙として扱われるなど、庶民の娯楽としてぞんざいに扱われ、美術価値が非常に高い作品が多数、海外に流失したり、喪失したことはあまりに有名である。


極端に、犯罪を賛美することや公序良俗に反する表現に対して、一定の規制を行うのは致し方ないかもしれない。しかしそれは、消費者や業界団体自身が自主的に行うべき事象であって権力機関が行うものではない。ましてや、名作や傑作は国など権力機関が決めるべきものではない。作品の表現に対する正当な評価や理解は時代や社会の価値観によって大きく変化するものであり、現在芽吹いている多様な表現の可能性を摘み取るような規制をすることは、後生の人々への遺産を減少させてしまうことに繋がるのではないだろうか。

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