崩れ始めたダブルスタンダード

チュニジアで吹いた反政府デモの風は、エジプトの長期政権を瓦解させ、リビアへ影響が拡大した。
独裁政治で知られるリビアにおいて影響は限定的なものにとどまるという認識が国際社会では一般的であった。しかし、そのリビアでも反政府デモのうねりは大きく広がり、わずか1月足らずで、1969年の革命以来続く長期政権の最高指導者を引きずり下ろそうとしている。


1973年の第四次中東戦争ではリビアは遠征国の一つとしてイスラエルと砲火を交え、パレスチナ問題において反イスラエルに最も強硬な国家として知られていた。また、核開発など様々な疑惑が持たれており、1990年代には国連から経済制裁を課された。近年では、パンナム機爆破事件の容疑者引き渡しやその犠牲者へ保障、核開発疑惑では核放棄を宣言しIAEAの査察を受け入れるなど外交に変化がみられていた。経済制裁の解除後は、アフリカ最大の埋蔵量といわれる国内油田の開発を外資企業と行い、産油された多くが欧州向けに輸出されており、欧米との関係は改善傾向にあった。さらに、リビアは周辺諸国に比べ国内の一人当たりのGDP が高いことなどから、国内不満も小さいと考えられていた。


しかし、カッザーフィー氏の独裁政治が続くなか、国民の不満は解消されていなかった。今回の反政府デモをきっかけにリビア国民の怒りは頂点に達し、国内の大半を国軍の大半を含めた反政府勢力が占領する状況となった。しかし、カッザーフィー氏も傭兵部隊や親衛隊を中心とした兵力で抵抗を続けている。一部情報では反政府デモに対し空爆を行ったといった報道もある。


これを受け国際社会は目まぐるしく動いた。商品相場では原油価格が急高騰。国連では歴史上初となる理事国の資格停止決議案を全会一致で採択。米英はNATO軍の介入を検討している。


なぜこのような状態になったのか、もっと早くに事態を良い方向に導くことはできなかったのか。その大きな原因は日本を含めた先進主要国による資源権益の問題が深く結びついている。先進主要国は人権や民主主義の浸透を世界各国に求める一方で、自国の利益にかなう独裁国家に対しては目をつぶり、場合によっては独裁を支持するといったダブルスタンダードを行ってきた。
しかし、圧政を敷かれている当事国の国民にとって反体制デモは自らの自由と権利を手に入れるための正当な手段である。そして、自国の権益を最大化し、その利益を公平に国民に分配することは先進主要国が世界各国に求めてきた民主化ではなかったのではないだろうか。


現在も資源国には、多くの独裁国家が存在している。今後我々に求められるのは、先進主要国のみに都合の良い民主化ではなく、互いにとってフェアな民主化の浸透を目指すことではないだろうか。リビアで起こっていることを遠い国の話として捕らえず、私達が今つきあっている身近な国にも起こりうることであると認識して学ぶことがまずは求められる。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。