食卓に届けられたホウレンソウ

2011年05月09日

福島第一原発の損傷による放射能漏れは、近郊県が生産する農産物から放射性物質が検出されるという事態を引き起こしている。JAや各県、農林水産省は基準値を超えた作物に関しては出荷制限や摂取制限などを設け、市場への流通を防いでいる。


しかし、千葉県では県から出荷自粛指示を受けていた旭市のサンチュが販売されていたことが判明。独自調査により放射線量が基準値を下回ったことを確認した旭市とスーパーが販売していた。また、出荷制限がかかっていた同県多古町のホウレンソウは生協を通じて直接消費者に届けていたこともわかった。さらに、出荷停止中であった同県香取市産のホウレンソウ約7800束を一部の生産者が、停止命令に従わずに市場に出荷していたことも判明している。それぞれ判明した時は出荷から日数が経っていたため大半は自主回収が間に合わず、すでに食卓に届けられていたとみられる。


生産者にとってみれば、収入源となる作物が出荷制限となり、収入が断たれたのである。有無を言わさずに課された基準の決め方や制限の仕方など行政の対応に対する生産者の不満は大きい。そして消費者の関東近郊産の作物買い控えはさらに生産者に追い打ちをかけている。


とはいえ、この3件は故意に出荷が行われたものであり、本来市場に出回っていないはずの商品が出荷されていたため、葉もの野菜全体への不信感を生んだ。この生産者は自ら、さらなる風評被害を生み出す可能性を高めたのだ。この一部の生産者による行為は他の自粛を守っていた生産者としても受け入れがたいだろう。


4月22日に千葉県の出荷制限は全面解除され、現在流通しているものは国の検査により安全性を確保されている。いまだ制限のある出荷地域はあるものの、どうか今後はこのような事象がないように願いたい。特に同業者同士で、復興に向けて力を合わせて取り組まなくてはいけないなかで、目先の自社の利益のみを考えることが、最終的に利益を減らすことは少なくない。
仮に、全体への影響を顧みず、自らの保身のみを考える企業や経営者が増えているのだとすれば、震災からの復興の道のりはさらに遠のくだろう。

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