ウィルス罪法案、ソフトウェア開発者の過大負担をさけるべき

不正指令電磁的記録作成等の罪(通称コンピューターウィルス作成罪(以下ウィルス罪))の新設について、平成23年5月27日の衆議院法務委員会の質疑応答で江田五月法務大臣が、バグの放置は不正指令電磁的記録提供罪が成立する可能性があると答弁したことでインターネットなどICTやソフトウェア業界などの間で大きな懸念が広がっている。


答弁では、「公開したフリーソフトウェアに、重大なバグがあると、ユーザーからあった際、それを無視してプログラムを公開し続けた場合は、未必の故意があり提供罪が成立する可能性があるのか」という答弁に対し、法務大臣が「あると思う」と回答した。また同委員会ではウィスル罪により警察などが捜査を行う際、民間企業にどのような根拠で情報保全や捜査権を行使するかといった判断基準についても質疑されたが、実情性や技術的な裏付けをともなわない曖昧な回答が続きウィルス罪の運用方法についても大きな不安を残した。


バグのない(脆弱性が皆無)ソフトを作成することが事実上不可能に近いということは、ICT関係者や開発者のなかでは常識である。ある調査では、現在普及している180種類のオープンソース・ソフトウェアのソースコードの中に、セキュリティ上のバグが1,000行当たり平均1件含まれているといった発表もされており、ソフトウェアの不具合を完全排除する難しさを伝えている。
本案が十分な議論を行わず成立した場合、有料、無料にかかわらず、ソフトウェアなどの開発者は開発後の修正などを含む対応をすべて行わなければならないといったことになりかねない。
リリース後の不具合排除による負担の大幅な増加は、開発企業の経営を圧迫し、人材と開発現場の国外流失につながる可能性があり、産業の根幹を揺るがすことになりかねない。また、営利をともなわない、フリーソフト開発者の負担があまりにも大きいといった懸念もされている。
これは、ICT業界のみの問題ではなくクールジャパンのけん引役として期待されているゲーム業界などでも同じである。
また、成長が著しいスマートフォン市場においても同様のことが言えるだろう。同市場における有料アプリの登録数は、Androidは7万2,000件、App Storeは21万1,000件とされている。今後も市場の大きな成長が見込まれているが、現在でも非常に激しい競争が続いている。
有料アプリの多くは、無料アプリの人気を受け収益化を目指しているケースが多いため、ウィルス罪に内容のよってはICTサービス市場への進出を求める国内の企業や個人の開発者に大きな障壁になる可能性が高い。


ユーザーの安心・安全を守ることが重要であることには異論はないが、開発現場の負担を増加させ、成長産業の発展を阻害しかねない本件に対しては慎重に議論を重ねていただきたい。

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