雇用動向と高年齢者雇用安定法

2013年03月05日

新政権の経済政策による景気が回復に向かっており、雇用にも明るい兆しがみえはじめている。総務省の労働力調査によると、2013年1月の完全失業率(季節調整値)は、前月比で0.1ポイント改善し、4.2%となった。就業者数は6,228万人で、前年同月比では17万人増となり3カ月ぶりの増加となった。産業別では「製造業」の減少が続いている点は懸念されるが、「医療・福祉」などが増加している。また、厚生労働省が発表した1月の有効求人倍率(同)も、前月より0.02ポイント改善して0.85倍となり、3カ月連続での上昇となった。


このようななかで、厚生年金の支給開始年齢の引き上げなどを背景に、高年齢者雇用安定法が改正され、2013年4月1日に施行される。今回の改正では、定年に達した従業員について、65歳までの雇用の確保が義務づけられる。これまで継続雇用制度(希望に応じて定年後も引き続き雇用する制度)を選択している企業は、対象となる高年齢者について、労使協定で定める基準により限定することができたが、改正後は原則として希望者全員を継続雇用の対象としなければならなくなる。ただし、経過措置として、現在、継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けている場合、老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢に到達した以降の者を対象に、12年間その基準を利用できる。


すでに定年を65歳以降に引き上げていたり、実質的に希望者全員を再雇用している企業もある。また、経過措置もあることから、今回の改正によって各企業に高年齢者が急激に増えるわけではないが、年金の支給開始年齢の引き上げによって継続して働きたいと考える高齢者は今以上に増加すると見込まれるため、じわじわと影響がでてくるだろう。今回の改正は、年金制度に関する目先の問題を企業の負担によって取り繕ったと言っても過言ではない。高年齢者の雇用が継続されず、年金も支給されず無収入となってしまう期間への対応は必要なことであるが、体力が必要である建設業や技術が更新されていくソフトウェア業など高齢者を雇用するのが難しい業種や、高年齢者自身の能力や健康状態、就業意欲の差などもある。企業や高年齢者の個別の状況を考慮せず一律で義務化するのもいかがなものだろうか。さらに、若年者層は将来年金がもらえるかどうかも分からないなかで、就職先さえ奪われてしまう懸念がある。しわ寄せは少なからず若年者層に及ぶことは明白で、将来を担う若年者層の雇用を減らしてしまい、技術力の低下や所得減による少子化等につながる可能性を高めてしまう。若者と高齢者がともに働ける環境作りが必要ではあるが、企業だけに負担を押しつけず、一段の高齢化が進む前に、そもそも年金制度の抜本的な改革が不可欠である。


※今回アンケートさせて頂いた雇用動向や高年齢者雇用安定法の改正への対応についてまとめた「2013年度の雇用動向に関する企業の意識調査」は3月14日に発表いたします。ぜひご覧下さい。

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