ポケモンGOが広げる可能性

7月22日に日本での配信が始まったスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」は、社会現象と呼べるほど多くの人を魅了している。配信開始を前に、内閣官房に設置されている内閣サイバーセキュリティセンターがプレイヤーに対する注意喚起を促したことや、麻生太郎財務相が「海外では引きこもりやオタクが外に出てポケモンをするようになった。精神科医より漫画の方がよほど効果が出る」と発言するなど、高い注目を集めていた。


このゲームは、スマホの位置情報を使った拡張現実(Augmented Reality, AR)のなかに現れるポケモンたちを捕えるものだ。ゲームが現実空間で展開されるため、プレイヤーは外に出かけなくてはならない。このゲームには人の移動を誘発する力があり、うまく利用すれば地域活性化や観光振興にも役立つであろう。


加えて、さまざまな経済効果も期待される。外を歩くプレイヤーは、喉が乾けば飲み物を必要とし、距離が長くなれば靴も擦り減ってくる。あるいは、時間指定でアイテムを活用することでプレイヤーを店舗に呼び込むこともできよう。ポケモンGOで外に繰り出した人々を自社のビジネスにつなげるアイデアは、湯水のごとく湧き出そうである。


国内スマホゲーム市場は2016年度に1兆円に迫るという。そうしたなかで、ポケモンGOの世界的な人気により、グローバルな拡張現実(AR)ソフト市場は2020年までに300億ドル(3兆円超)に達するという試算もある。ARはあくまでも現実空間を拡張するものであるため、さまざまな実生活で活用されている。実際の部屋の映像に家具カタログのデジタル写真を取り込み、家具配置のシミュレーションを行うことも一例といえよう。


ポケモンGOのプレイヤーを対象に行われた調査によると、ゲームをする前後で「運動量が増えた」や「家族とのコミュニケーションが増えた」「それまで気づいていなかった、自分の住む地域の魅力に気づいた」と感じているプレイヤーが多いという、日常生活でポジティブな変化が起こっている。他方、歩きスマホの増加や公園の占拠、交通規則を守らない人が増えるなど、ネガティブな影響もあり、7月22日からの6日間で、車や自転車を運転中にポケモンGOを操作していたとして、全国で合計406件摘発されている(警察庁発表)。


新たな成長分野に軋轢が生じるのは、いつの時代も同じである。しかし、今回の社会現象は、将来の実生活に及ぼす新たな可能性を示しているのではないだろうか。

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