猫ブームとソーシャルメディア・マーケティング

空前の猫ブームと言われる昨今。関西大学の宮本勝浩名誉教授によると、猫の経済効果「ネコノミクス」は約2兆3,000億円に上るという。雑誌では頻繁に猫の特集が組まれ、書店には猫の写真集が大量に並ぶ。テレビを付ければドラマや動物番組、CMに猫の姿が溢れ、猫を扱った映画も相次いで公開された。全国各地の施設では、「猫の駅長」をはじめとする看板猫たちが集客に一役買っている。


猫ブームの理由として、「犬に比べ飼育が楽であること」、「都会の単身者でも室内飼育が可能であること」などが挙げられている。だがそうだとしても、なぜここ2~3年で急激に人気が盛り上がったのか。


背景には、ソーシャルメディア(電子掲示板、ブログ、動画サイト、SNSなど)の普及があるという。


犬の飼育は散歩がともなうため、街で姿を見かけたり愛犬家同士が知り合ったりする機会が多く、情報や飼い主のコミュニティが広がりやすいという。一方、室内飼いが推奨される猫にはそうした機会が少なかった。


この状況を変えたのがソーシャルメディアの普及だ。これまで人知れず猫を飼っていた人たちが、ソーシャルメディアに猫の写真や動画をアップ。飼っている人しか目にすることのなかった猫のユーモラスなしぐさや人に懐いた姿がネットを通じて拡散されたことが、猫人気を一気に盛り上げたという。書店に並ぶ猫写真集の多くがブログやSNSの書籍化であることをみても、こうした見解は的を射ているように思う。


そうしたソーシャルメディア上の人気猫の一つに、「桶川猫」がある。埼玉県のサーキット場「桶川スポーツランド」が、世話をしている猫の様子をTwitterで発信していたところ、その気ままでユーモラスな姿が評判になり、テレビや雑誌でも紹介され人気となった。その結果、桶川スポーツランドの知名度も一躍向上したという。


ソーシャルメディアの普及にともない、FacebookやInstagram、Twitterなどを活用した「ソーシャルメディア・マーケティング」に取り組む企業が増えている。情報発信や販促キャンペーンなどにソーシャルメディアを活用するものであるが、なかには「売り込みを図らず、コンテンツへの共感をきっかけに企業のファンを増やす」スタンスでソーシャルメディアを活用し、成功している企業もある。「桶川猫」は意図せず後者となった事例と言えるだろう。


ソーシャルメディア・マーケティングはどちらかというとB to Cビジネスに向き、B to Bビジネスには活用しにくいと言われる。また、緻密な計画に基づいて実行し、アクセス解析などで効果を測定するといった取り組みも、多くの企業にとっては煩雑だろう。


しかし「桶川猫」のように、経営者や従業員の趣味や関心を生かし、本業には関係がなくとも一般ユーザーが楽しめるようなコンテンツを通じて企業の知名度を向上させる「ゆるい」ソーシャルメディア・マーケティングは、中小企業にとって思いのほか有効な手段となるかもしれない。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。