"トランプノミクス"の行方

2017年1月20日(米国東部標準時)、米国で新たな大統領が就任する。はたして、大統領選挙で勝利したトランプ氏の経済政策(トランプノミクス)が日本にどのような影響を及ぼすか、非常に注目される。


トランプノミクスは主に、大型減税、公共投資の拡大、規制緩和、保護主義的な通商政策、不法移民対策の強化などに整理できよう。


大型減税は個人所得税の最高税率や法人税率の引き下げ、公共投資は道路や橋などインフラ投資の拡大、規制緩和は金融規制のためのドッド=フランク法の廃止、保護主義的通商政策は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの撤退や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、不法移民対策は罪を犯した不法移民の強制退去などである。


これらの効果を分析するときには、短期的な影響と中長期的な影響など、時間軸を分けて考える必要があろう。


トランプノミクスが米国経済に及ぼす影響を考えてみると、大型減税は、短期的にも中長期的にも米国経済にとってプラス効果をもたらすとみられる。しかし、公共投資の拡大は、短期的にはプラスとなるものの、中長期的には財源の問題等もはらみ効果はマイナスとなる可能性がある。また、金融規制の緩和は短期的には金融機関の収益機会が拡大するためプラスとなるが、中長期的にはプラスとなるかマイナスとなるかは不透明な要素が強い。


他方、保護主義的通商政策や不法移民対策は、短期的にも中長期的にも米国経済にとってマイナスの効果をもたらすと考えられる。移民は米国の経済成長の源泉ともなっているうえ、強制退去させるには人数が非常に多い。通商政策は、11月21日にトランプ氏の「就任後100日計画」でTPPからの離脱が改めて表明されたが、米国際貿易委員会(ITC)[1]や日本政府の試算[2]においても米国経済にプラス効果をもたらすという結果が出ており、保護主義の台頭は米国経済を後退させる要因といえよう。


現在、トランプノミクスのプラス効果をより反映した形で、為替相場は円安傾向に振れ、株式市場も上昇している。短期的には、トランプノミクスが米国経済を押し上げることは、日本経済にも追い風となろう。しかし、中長期的な時間軸で考えると、米国での保護主義の高まりは世界貿易の縮小をもたらし、日本経済は厳しい状況に直面する可能性も想定しておく必要があろう。



[1] International Trade Commission, "Trans-Pacific Partnership Agreement: Likely Impact on the U.S. Economy and on Specific Industry Sectors", May 2016(https://www.usitc.gov/publications/332/pub4607.pdf)
[2] 内閣官房TPP政府対策本部、"TPP協定の経済効果分析"、2015年12月(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/kouka/pdf/151224/151224_tpp_keizaikoukabunnseki02.pdf)

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