若手の人材流出

4月を迎え、今年も多くの新社会人が誕生した。大きな希望と夢を持ち、ぜひ後悔のない日々を送って欲しいものである。


他方、企業側からみると、新卒新入社員は経営戦略を踏まえた事業計画のもと、人手不足が続き超売り手市場といわれるなかで獲得した、貴重な人材である。そのため、新入社員が企業の将来を担う重要な人材として成長することを期待する。


こうしてようやく獲得した人材が短期間で離職してしまうと、企業にとって大きな痛手となる。厚生労働省「新規学卒者の離職状況」によると、大学卒業者では2014年4月の新規学卒就職者の32.2%が、就職後3年以内(2014年4月1日から2017年3月31日まで)に離職している。事業所規模別にみると、5人未満は59.1%と6割近くに達しているほか、1,000人以上では24.3%と大卒新卒者の4分の1が3年以内に辞めている。


このような状況を受け、「最近の若者は忍耐力がない」「ゆとり世代やさとり世代は考え方が甘い」などと言う人もいるが、はたして本当だろうか。


上記の調査をみると、就職後3年以内に離職する割合は、バブル崩壊直後の数年間を除き、1987年以降30年以上にわたって概ね3割前後で推移している。つまり、少なくとも現在の50代以下の年齢層では、就職後3年以内の離職率について大きな違いはないのである。


では、離職者はどのような理由で離職しているのであろうか。労働政策研究・研修機構の2017年の調査によると[1]、新卒3年以内に初めての正社員勤務先を離職した理由について、男性は「労働時間・休日・休暇の条件」がトップとなり、「自分がやりたい仕事とは異なる」「肉体的・精神的健康を損ねた」が同率で2位となっている。女性は「肉体的・精神的健康を損ねた」の割合が最も高く、2位「労働時間・休日・休暇の条件」、3位「人間関係がよくなかった」があげられていた。


この結果から、若者の離職理由は一般的に思い浮かぶ労働条件や仕事内容にとどまらず、健康を損ねたことや人間関係が大きな理由となっていることが分かる。


このうち、労働条件や仕事内容については、採用活動・就職活動における企業・求職者双方のコミュニケーションを高めることで、こうしたミスマッチはある程度防ぐことができる。


しかし、肉体的・精神的に健康を損ねることや、同僚・上司・部下・取引先などとの人間関係は、日頃の業務のなかで生じることで、採用前の段階でミスマッチを防ぐことは難しい。自社の将来を担う人材を失うことは、企業にとって大きな損失である。近年の研究で、従業員の良好な健康や円滑な人間関係は企業業績の改善に寄与することが明らかにされている。職場環境を整えることは被雇用者にとっても経営者にとっても重要なポイントといえよう。



[1] 独立行政法人労働政策研究・研修機構、「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」、JILPT No.164、2017年2月。1982年4月~1995年3月生まれで、正社員として勤務した経験が1回以上ある人が調査対象となっている

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