飲食店の無断キャンセル問題を考える

4~5月は歓迎会シーズン。多くの職場で新しい仲間との懇親会が開かれたことだろう。私の職場も例外ではなく、所属部署関係のものが2回、任意のメンバーで開催したものが1回と、計3回の歓迎会に参加した。今年はそのすべてで幹事、あるいはそれに近い役回りであったため、ここ数週間は何かとやることが多かった。


歓迎会準備の第1歩は会場予約である。3回のうち1回は参加人数が100名前後の大所帯で、それなりの規模の店を探さなければならなかったが、なんとか押さえることができた。その後、店とのやり取りで費用の支払いの話になったのだが、100名分の予約にもかかわらず、内金はたったの1万円。残りは当日支払いとなった。私はてっきり総額の3分の1ほどを内金として収めるものと思っていたため、あまりの少なさに拍子抜けしてしまった。


私はこの説明を受けた後、「もし仮に自分たちが無断でキャンセルをしたら、この店はどうなるのか」とふと思った。もちろん、当日は美味しい料理とドリンクを参加者みなで楽しみ、最後に予定通りの費用をお支払いした。しかし、内金1万円が総額と比べてあまりにも少額で、直前・無断キャンセルが発生した際のリスクヘッジとしては不十分に感じた。一応、「当日キャンセルした場合のキャンセル料は100%」との説明もあったが、店側に提示したこちらの情報は自分の名前と携帯電話番号のみ。キャンセル後に連絡がつかなくなったら、キャンセル料の請求は難しくなるだろう。


2018年3月、東京簡易裁判所は、飲食店の予約を無断でキャンセルした客に対し、店側への損害賠償を命じる判決を下した。この客は2017年4月、東京都内の飲食店で40名分、総額約14万円のコース料理を予約したものの、当日は予約時間になっても店に現れず、その後連絡もつかなくなったという。クレジットカード業を手がける三井住友トラストクラブは、直前・無断キャンセルで生じる飲食業界全体の推定損失額について、少なくとも年間約750億円と試算する。予定していた売上を計上できないばかりか、食材等の仕入れ代金は持ち出しになるなど、直前・無断キャンセルは飲食店にとって大きな損害だ。


予約した飲食店をキャンセルしなければならない時は、なるべく早期に店側に伝えるのはあたり前の動きではないだろうか。にもかかわらず、昨今はキャンセルをしないで、放置してしまうケースについて書かれた記事をよく目にするようになった。そうなると飲食店側にも適正な内金を設定する、あるいはキャンセル規定について書面やメールなど残る形で通知し、かつ確実に連絡が取れるようにしておくなど、キャンセルリスクへの備えが必要となるのかもしれない。


飲食店の予約がスマートフォンのアプリで気軽にできるようになった今、これまで以上に見えにくくなったインターネットの先の相手に対する配慮を再認識する必要があるのかもしれない。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。