高齢者ドライバーによる交通事故撲滅に向けた一考

2019年4月、東京・池袋で高齢者ドライバーによる死傷事故が発生した。2名の死亡者と運転者本人を含む8名の重軽傷者を出したことは、記憶に新しい。


警察庁の「運転免許統計平成30年版」によると、後期高齢者にあたる75歳以上の免許保有者は全体の約6.8%にあたり、約564万人。85歳以上であっても約61万人存在している。


年々死亡事故の件数が減少しているなか、高齢者ドライバーによる死亡事故の発生状況[1]をみると、2018年中に75歳以上の運転者が引き起こした件数は460件(前年比42件増)であった。これは、死亡事故全体の約14.8%(同1.9ポイント増)を占め、高齢者ドライバーによる死亡事故の構成比は年々上昇傾向となっている。


こうした状況に対して、従来から国は免許更新時に70歳から74歳の人に「高齢者講習[2]」、75歳以上には「高齢者講習」と併せて「認知機能検査[3]」を義務化している。


しかしながら、これらの検査などを経て免許を更新している高齢者であっても、悲惨な事故が発生している現状を鑑みると、現在の制度以上の更新基準が必要と思えてしまう。


現在の講習や検査の内容を調べてみると、免許の取り消しや停止となる対象は「認知機能検査」の結果、第1分類と判定された人(記憶力・判断力が低くなっている人)のうち医師等から認知症と診断された人となっている。


多少、記憶力や判断力が鈍くなっていても講習を受ければ免許の更新ができてしまうのが実情である。


現在の講習や検査をパスしたとしても、加齢による動体視力の低下や情報の同時処理、瞬時の判断力の低下などは免れない。実車試験を導入[4]して、ハンドルやブレーキ操作、運転中の認知能力の結果により、免許の更新を判断する時期に来ているのではないだろうか。


他方で、車がないと生活が困難となる高齢者がいることも事実である。車がなくても生活が可能な環境の整備を求めつつ、早急に高齢者向けパーソナルモビリティの発展や自動運転車の開発が進むことで、高齢者ドライバーによる悲惨な事故の撲滅を願うばかりである。



[1] 警察庁交通局「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」
[2] 交通ルールや安全運転に関する座学、動体視力等の検査、運転講習の3つの内容を受講する
[3] 記憶力や判断力を測定する検査で、時間の見当識、手がかり再生、時計描画という3つの項目を検査する
[4] 「高齢者講習」では運転の講習が含まれているが、免許更新に直結する判定ではない

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