憧れの小学校教諭を辞めた友人

2018年度の末、非常に仲の良い私の友人が小学校教諭を退職した。その理由は、「きつかったから」に尽きていた。友人が学生時代から小学校教諭を志し日々勉学に励んでいた姿が目に焼き付いている私にとって、それは非常に悲しい知らせだった。


話を聞くと、朝の7時過ぎには出勤し、遅い日には日付が変わる時間まで学校に残り、授業の準備やテストの採点などの校務に明け暮れていたらしい。それでも仕事は山積し、さらに運動会などのイベントやPTAなどによって休日出勤をしなくてはならず、加えて現行の法律では時間外給与も支払われない[1]。そうしたなかで身体の限界を感じ、退職に至ったのだという。


現状を整理すると、教育職員は、政令で「正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じない」ものとすると定められている[2]。しかし、同時に「生徒の実習」「学校の行事」「職員会議」「非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合」の4つの場合は時間外労働を命じることができるとも記されており、これらはいわゆる「超勤4項目」と呼ばれている。ただ、授業の準備やテストの採点は「生徒の実習」に関わる業務であり、運動会やPTAは「学校の行事」に該当するなど、4項目の範囲は非常に広義である。言い換えるとほとんどの業務は時間外給与の支払われない業務になってしまい、これが教員の長時間労働の一因となっていることが指摘されている。


こうした教師の長時間勤務を是正するために、政府は2019年1月に「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定した。教師の在校時間に対して上限時間を策定することや、勤務時間の長時間化防止に向けた役割分担の適正化や必要な環境整備が主な内容である。さらに、上限の目安時間を超えた場合は、教育委員会が業務や環境整備などの状況について事後的に検証を行うこととしている。


既に友人は退職してしまったが、このガイドラインが教師の労働環境改善に向けた大きな一歩となることを期待したい。小学校は義務教育を担う機関であるゆえ教育の充実は必須であり、長時間労働への懸念で人手を失ってはいけない。そして、教師という職業は子どもが抱く「将来の夢ランキング」の常連だ。今後も上位に名を連ねる職業であってほしいと願っている。



[1] 「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(通称:給特法)」第3条の2には、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」と定められている。
[2] 「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」(平成15年政令第484号)第1項

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