プラットフォーム型ビジネスの競争政策上の課題

2019年のGWは史上初の10連休で、期間中に旅行に出かけた方が多かったようだ。JTBが4月4日にリリースしたインターネットアンケート調査によると、同期間中の国内旅行人数の推計値は2018年より1.1%増加した。神社やお寺へのお参りや改元記念ツアーなど、改元にちなんだ旅行をした人が多かったようだ。帝国データバンクで毎月公表している景気DIをみても、5月の旅館・ホテルの景気DIは前月比9.0ポイント増加となっている。


そのようななか、公正取引委員会が4月10日に複数の大手旅行予約サイト[1]に対し、独占禁止法違反の疑いで一斉に立ち入り検査に入った。取引先のホテル・旅館に対し客室料金について、他の競合サイトやホテル固有のホームページ上での価格と同等またはそれ以下の条件を強制する最恵国条項(MFN、Most Favored Nation Clause、以下MFN条項)があったか検査しているようだ。MFN条項は競争政策上どのような問題があるのだろうか。


第一に考えられるのは、潜在的な旅行サイト参入企業への参入阻止効果である。旅行サイトとホテルの間でMFN条項があるとき、川下の競合サイト間での競争を促進する効果が生まれると考えられる。しかし一方でMFN条項を既存サイトと結んでいる川上企業が多ければ多いほど、参入したい新規サイトにとっては既存のMFN条項そのものが価格的障壁となる。そのため参入を阻止する効果をMFN条項は有していると考えられる。 新規の参入が少なくなれば、その市場の寡占化が進み競争が少なくなる。


第二に、川上のホテル・旅館間の競争緩和効果である。川上企業のホテル・旅館はMFN条項により、他のサイトや自社サイトでの価格づけやプラン、サービスの提示が制限される。他のサイトで低価格を付けた場合、MFN条項によって既存サイトの価格も引き下げなくてはならず、価格を引き下げてまで空室を埋めようとするインセンティブが損なわれる。多くの川上企業がMFN条項を結んでいるのであれば、川上企業間での競争が緩和され協調的行動に向かう可能性がある。


MFN条項が競争を制限する可能性を持つなか、ホテルや旅館がそれでも旅行サイトを介して消費需要を掘り起こすのは、消費者がホテル・旅館を探し、比較する手間や費用がかかるためである。旅行サイト間の競争・参入は近年激しくなっている。最近ではトリバゴやトリップアドバイザーのような、メタサーチとよばれるプラットフォーム間の価格比較ができるプラットフォームも台頭してきている。サイト間の価格比較が容易になっていく環境下で今回のような事例が、旅行サイトのみではなく、他の同様なプラットフォーム型ビジネスにおいても今後増加するのではないだろうか。プラットフォーム型ビジネスでは独占禁止法が適応された先行例が少なく、公正取引委員会は今後のベンチマークとなるような裁定をとる必要があるだろう。



[1] ここでいう旅行予約サイトとは、ホテル・旅館を予約することができるインターネット上のプラットフォーム(OTA: Online travel agent)を指している。

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