アナログレコードの「不便さ」には価値がある

21世紀に入り音楽ソフト市場が減退の一途をたどっているなか、近年アナログレコードが生産を伸ばしている。1980年代にとってかわる音楽媒体としてCDが登場し、レコードの生産枚数は1980年の約2億枚から2009年には約10万枚にまで激減した。しかしその後増加に転じ、2018年の生産枚数は約111万枚、2013年からは5年連続で増加している[1]。


世界的にもレコード市場は増加基調にある。イギリスのEntertainment Retailers Association(ERA)が2018年に行った調査によれば、イギリス国内においてレコードを購入する人は、他の媒体を購入する人と比べてコアなファンが多いそうだ。コアなファンとは、年間400ポンド、枚数では19枚以上レコードに支出する人と定義され、イギリス全体のレコード売上のおよそ72%がこのコアなファンによって購入されている。


おそらく日本でも同様な状況なのだろう。日本の購買層はかつてレコードで音楽を楽しんでいた高齢層だけでなく、近年では若年層の新規需要も大きいようだ。ストリーミングやサブスクリプションの拡大もあり、減退気味の音楽ソフト市場の中でレコードは再び存在感を増している。


アナログ特有の温かみのあるサウンドや、写真映えする大きなジャケットも影響しているのだろう。私はアナログレコードがもつ「不便さ」が、一部の消費者からみるとかえって魅力的にみえているのではないかと思っている。ソニーのウォークマンが発売されて音楽はどこでも聴くことができるようになり、さらにデジタル化が進む中で音楽のデータを大量にコンパクトに持ち運べるようになった。一方、レコードはターンテーブルへ慎重にレコードをセットし針を落とさなければ音楽は再生されないし、1曲目から順番どおり聴かざるを得ず、A面からB面に変えるためにはレコードをお好み焼きのようにひっくりかえさなくてはならない。はっきり言って手間のかかる媒体である。レコードで音楽を聴くということは、「持ち運び」機能など他の媒体で可能な便利機能を自発的に制限しているようなものだ。


レコードの復活に関する考察の中には、音楽を聴くためのこのような煩わしい手順・体験そのものが現代人にとって希少性があり、魅力的になっているとの意見もある。レコードで「不便に」音楽を聴くことに新しい価値・楽しみがあらわれているのだ。レコードを購入する目的も、音楽を聴くことだけではなく、インテリアのため、収集のためなどと多様化している。レコードに限らず、例えば辞書についても似たような話をきく。電子辞書、検索エンジンで速く簡単に調べることができるようになったが、あえて紙の辞書を使うことで、近くに記述されている事柄についても覚えることができると評価されて、現在でも紙の辞書は一定の需要があるそうだ。時間が経つことで新しい価値が発見され、評価されるという点が非常に興味深い。




[1] 一般社団法人「日本レコード協会」生産実績(https://www.riaj.or.jp)

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