ビッグデータ社会との付き合い方

ビッグデータや機械学習といった言葉が、新しいトピックとして社会的に注目されてから10年近くが経つ。こうした用語がメディアで取り上げられる機会も急増しており、2018年には主要マスコミでの掲載記事数が1万2,000件を超えていた。


他方、経済分析を専門とする人たちの間では、2000年頃にはすでに多くの研究が蓄積されてきていた。当時、私も参加した日本経済学会において、ビッグデータを使った景気予測の研究が報告されたことを記憶している。


近年では、知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術であるAI(Artificial Intelligence、人工知能)や、家電製品などがインターネットにつながることで機能が拡張されるIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の商品化が急速に広がっている。さらには、IoTを通じて得られたビッグデータを事業化に必要となる形で統合・管理・分析を行うAoT(Analytics of Things)の重要性が増しており、将来の収益源を創出するエビデンスとして利用されつつある。


しかしながら、現状では、こうしたデータ分析を行う人材は非常に不足している。IT人材の不足は、2018年時点で22万人、2030年には45万人に増加すると試算される(経済産業省・厚生労働省・文部科学省「IT人材需給に関する調査」2019年4月)。さらに、AI機能を搭載したソフトウェアやシステムの開発などを行うAI人材に限ると、2018年の3.4万人から2030年は12.4万人に拡大すると予測されている。


政府は、未来投資戦略(成長戦略)でデータサイエンスの専門家育成を掲げているが、これには産学が連携して取り組むことが欠かせないであろう。帝国データバンクでは、データサイエンス分野の発展に向けて4大学[1]と連携しており、こうした産学連携は今後の人材供給にとって大きな柱となりうる。


ただし、2018年に開催された上記学会での議論において、将来的にはデータ専門家は要らなくなる、という非常に重要な指摘がなされていた。現在、機械学習やAIの分野では、データサイエンティストがいなくても少数のデータを用意するだけで、機械学習できる手法が開発されつつある。そのため、データサイエンスだけに詳しい人材よりも、他の専門分野の理論や背景をしっかりと理解し、その上でデータの取扱いもできる人材が求められる、という指摘である。


ビッグデータ社会においては、自身の得意分野で足下をしっかりと固めるとともに、さらにデータとの付き合い方や基本作法について、人間が「学習」することがより重要なのかもしれない。



[1] 2019年10月3日時点で滋賀大学、横浜市立大学、武蔵野大学および兵庫県立大学と連携している

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