働き方改革は企業に好影響をもたらすか?

2019年4月より「働き方改革関連法」が施行され、同年は働き方改革の動きが広がった一年であった。2020年4月からは、いよいよ時間外労働規制のルールが中小企業に対しても適用される。


働き方改革によって期待されるのは、まず労働者のワークライフバランスの改善である。他方、雇用主である企業にとってのメリットは労働力の確保と生産性向上である。しかし、帝国データバンク「働き方改革に対する企業の意識調査(2019年12月)」によると、働き方改革に取り組んでいる中小企業、小規模企業はそれぞれ56.7%、41.6%にとどまっている。とりわけ、働き方改革に取り組んでいない企業の多くでは取り組む必要性や効果に懐疑的である様子がうかがえた。


果たして働き方改革への取り組みが本当に企業に良い影響をもたらすのであろうか。


これを考えるうえで、まずは「労働者の確保」に注目したい。働き方改革に期待されることは、より働きやすい環境を作ることであって、社員の意欲を向上させるとともに健康状態を維持させ、離職を防ぐことや新たな人材を引き寄せることにある。そこで身を削って働くことが評価される風習や残業で稼ぎたいという考え方を持っている人は働き方改革に対して魅力を感じず、結果として「労働者の確保」に繋がらないのではないか、という世間の声もしばしば聞く。しかしながら、内閣府の実証分析[1]では「生活の楽しさ・面白さ」「家計・資産」に次いで「ワークライフバランス」は日本人の満足度や生活の質の最も重要な要因であることが判明し、そういった思考はいまや少数派であると考えられよう。


他方、「生産性向上」に関してはどうであろうか。厚生労働省の分析[2]によると、一般的に「休暇取得率」が高い産業は、労働生産性も高い傾向にある。また海外の研究[3]では、中国のとある旅行会社での「在宅勤務」の導入が労働者の生産性を13%上昇させた、という結果を示した。


ほかにも、働く環境の改善が企業業績にもたらす影響に関する研究も多数ある。なかでも「育児休暇取得率」「女性従業員比率」が高い企業ほど収益性が高いという研究結果を示したものさえあるのだ[4]。さらにいえば働き方改革への取り組みによって、企業はSDGs(持続可能な開発目標)に貢献することもでき、ひいては知名度やイメージの向上に繋がるのではなかろうか。


「働き方改革」が到来してから数年も経っていない現状では、取り組みの必要性や効果を含め戸惑う企業は少なくない。政府は引き続き施策の意義や詳細などの情報提供や取り組み支援を行うとともに、施行の効果を分析し公表していくことが必要であろう。



[1] 内閣府、「満足度・生活の質に関する調査」に関する第2次報告書、2019年7月30日
[2] 厚生労働省、「休暇取得率等の影響について」、労働市場分析レポート第86号、2018年3月30日
[3] Bloom, Nicholas, James Liang, John Roberts, and Zhichun Jenny Ying,"Does Working from Home Work? Evidence from a Chinese Experiment", NBER Working Paper 18871, 2013
[4] 加賀田和弘、「CSR と経営戦略-CSR と企業業績に関する実証分析から-」、総合政策研究、2008年

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