ポストコロナの世界における製造業のニューノーマル

新型コロナウイルス感染症はあらゆる業界に猛威を振るっている。4月のTDB景気動向調査によると、人の移動の制限や企業活動の制約を受けた「旅館・ホテル」「飲食店」を含むサービス業など、全10業界の景況感は先月と比べて大幅に悪化した。なかでも製造業では、当初中国やASEANなどの生産ラインの停止による部品や資材調達の滞りが起き、企業は工場の操業停止に追い込まれていた。感染拡大が全世界に広がった今日においては、多くの製品需要が急減したことにより大手企業は減産へと動いており、中小企業などの下請け企業に影響を及ぼしている。特に自動車業界では2019年の需要減も相まって大打撃を受けている。


一刻も早く新型コロナウイルス感染症が収束し、需要が回復することを誰もが願っているなか、ドイツの大手自動車メーカーフォルクスワーゲンは落ち込んでいた自動車需要が中国で回復しているとの見方を示し、自動車業界に明るい兆しがみえてきた。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、移動手段を感染リスクのある公共交通機関から自家用車に切り替える消費者が増えたことが回復のひとつの要因とみている。需要の回復は中国以外ではまだみられていないが、こういった消費者マインドの変化は中国のみならず世界各国でも読み取れる。ドイツの統計サイトStatistaの調査(5月14日)によると、新型コロナウイルス感染症によって変化したライフスタイルとして、公共交通機関の利用回避と回答する割合は、米国で37%、ドイツで46%、英国で64%にものぼり、自動車や自転車の需要増が期待される。


このように、危機が終わったポストコロナの世界は多種多様な要因で製品の需要が回復されていくと予想されるが、新型コロナウイルス感染症の「第2波」をはじめ、他の感染症や自然災害、金融危機などはいつでも起こりうる。こうしたさまざまなリスクに備えて、新たな対策の実施が必要になってくる。各国の製造業においては生産拠点を国内に回帰させる動きが今後のトレンドになるだろう。それは日本も例外ではない。既に日本政府は生産拠点の国内回帰強化も含めた緊急経済対策として、4月30日に成立した2020年度補正予算に2,486億円を盛り込んだ。


各国における国内回帰の動きは、今回のようにグローバルロジスティックが働かなくなってしまう異常時においても、サプライチェーンを一定の割合で確保することが可能である。しかし一方で、日本を含めた先進国においてはその人件費の高さから企業には重荷となり、生産性が低下する恐れが大いにある。だからこそデータとデジタル技術を活用して製造現場を変革していく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の普遍化が製造業の生き残りに直結するであろう。これがいわゆる「ニューノーマル(新常態)」である。

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