ピンチこそ『人間万事塞翁が馬』の精神

「人間万事塞翁が馬」とは、誰しも一度は耳にしたことがあることわざではないだろうか。その意味を確認してみると、「人生における幸不幸は予測しがたいということ、幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、安易に喜んだり悲しんだりするべきではないというたとえ」(故事ことわざ辞典)などとある。


具体的には、中国の『淮南子』という思想書に由来となったストーリーがある。


国境のほとりにとある老子(塞翁のこと)が住んでいた。老子が飼っていた馬は、敵の国に逃げ出してしまう。周囲の人々は老子を気の毒に思い慰めるが、老子は「これが不幸とは限らない」と言った。月日が流れた頃、なんとその馬は名馬を連れて帰ってきたのだ。今度は周囲が老子を祝福すると、「これが幸せとは限らない」と言うのである。すると、老子の息子は名馬から落馬してしまい、足が不自由になってしまった。これにも対しても老子は「これが不幸とは限らない」とほほえむ。その一年後、敵国が突然攻めてきて、若い男性は徴兵され多くの方が亡くなってしまった。しかし、老子の息子は足が不自由であるため徴兵を免れ、戦乱に巻き込まずに済んだのであった。


この話から、いい時も悪い時も一喜一憂せずに物事を考えることが必要であることを学ぶことができる。言い換えると、「チャンスの後にピンチあり、ピンチの後にチャンスあり」とも言えるだろう。これはスポーツで頻繁に聞く言葉だ。例えばバスケットボールならば、得点された後にすぐに反撃を仕掛ける「カウンター」で一気に得点を奪い返しに行くシーンなどが浮かぶだろうか。


なぜこの言葉とストーリーをここで紹介したのかというと、まさに今は未曽有の事態の最中であるからだ。新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年の経済は大打撃を受けてしまった。緊急事態宣言が発出され、本格的な行楽シーズンとなるはずであった今も経済は活気を取り戻せずにいる。2019年は東京五輪まであと1年をきったかと楽しみにしていたものだが、そんなことすら遠い記憶となってしまった。先行きを明るく見通すことが難しい日々であるが、こんなピンチの時こそ、「人間万事塞翁が馬」の考え方が求められる。


人生にはさまざまなピンチがつきものであろう。活躍している人のほとんどが苦労やピンチを乗り越えてきているはずだ。今回の新型コロナウイルスの感染拡大というピンチは、これまでに多くの混乱や悲しみをもたらしてきたことは間違いない。しかし、今後は少しでも良くなるというマインドセットを持つだけで、この危機に対する捉え方は大きく変わってくるのではないだろうか。

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