企業で広がる経済学Ph.D.取得者の採用

近年、ビジネスや政策の現場で経済学を活用する機会が増えている。特に、かつては大学教員などに限られていた経済学博士号(Ph.D.)取得者について、民間企業が採用を増やしているのである。


経済学のなかでも、マクロ経済系は従来から金融機関や国際機関などで活躍する場があったが、ここにきてミクロ経済系に対する積極的な採用活動が顕著である。例えば急増するIT業界のほか、小売や自動車、広告、人材紹介、不動産など、さまざまな業種にも広がっている。


具体的には、Amazonでは200名以上の経済学博士を抱えており、Uberでも30名程度が在籍している。特徴的なのは、これらの企業が経済学博士を研究所勤務の研究者ではなく、「会社の利益に直接貢献するビジネスパーソン」として雇用していることだ。


もともとエコノミスト(経済学者)は、現実の状況整理や課題の明確化、そしてそれらの適切な定式化やデータ分析に落とし込むトレーニングを受けており、こうしたスキルに長けている。これらは課題が最初から明確なことは少なく、物事をどのようにモデル化すべきか分からない現実の世界において、大いに役に立つ能力であろう。


また、エコノミストを常用雇用するだけでなく、プロジェクトに応じて分析を依頼することもある。この場合の料金相場は時給5万~20万円程度と言われているが、経験の浅いエコノミストや政府からの依頼などでは比較的安めで、熟練者や企業にアドバイスする場合などは高めになる。しかし重要なことは、企業規模の大小を問わず、今後こうした人材を多数擁する企業と伍していかなければならいということである。


10月12日、2020年のノーベル経済学賞がポール・ミルグロム米スタンフォード大学教授とロバート・ウィルソン同大教授に決定した。授賞理由は「オークション理論の発展への貢献」である。オークション理論は現実のさまざまな政策や商品・サービスで使われている。代表的な事例としては、携帯電話における周波数オークションであろう。同制度は、現在、多くの国で導入されているが、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国で日本だけが導入していない。


また、企業の商品・サービスにおいては、ネットオークションでの入札にとどまらず、検索連動型広告やアンティーク、木材、不動産、五輪放映権、EC(電子商取引)でのレコメンド表示など、非常に幅広い分野で活用されている。もちろん、公共事業における入札も含まれる。オークション理論はどのような業種に属していても理解しておくと有益な考え方であるが、これらを自社の利益に結び付ける仕組みを考えるのもエコノミストの得意とするところである。

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