クオータ制の導入は能力ある人材の活躍につながるか

2020年11月8日(日本時間)、接戦が続いていたアメリカ大統領選挙で、マスコミ各社は民主党のバイデン前副大統領が共和党のトランプ現大統領を破り当選確実と報じた。正式には各州の選挙人による投票(12月14日)、開票(2021年1月6日)を経て決定されることになるが、1月20日にはアメリカの新大統領が誕生する見通しである。


同時に副大統領としてカマラ・ハリス上院議員が就任する予定となっている。同氏は、ジャマイカとインド出身の移民の親の元に生まれ、女性としてだけでなく、黒人さらにアジア系として初の副大統領となる。まさにアメリカ社会の多様性を体現するかのようであり、国民の期待も大きいのではないだろうか。


一方、日本では、女性議員比率は依然として低いままである。IPU(列国議員同盟)によると、各国の下院(衆議院)または一院制の国における女性議員の割合をみると、日本は9.9%で191カ国中165位(2020年1月時点)にとどまっている。


そこで、女性議員の比率を引き上げる有効な手段として注目されているのが、議員の候補者や議席の一定比率を男女それぞれに割り当てる「性別に基づくクオータ制」である。現在は、130以上の国や政党レベルで各種クオータ制が導入されて選挙が執行されている。しかしながら、クオータ制には「平等原理の侵害」や「逆差別」などの観点から、導入に反対する声も根強くあることも確かである。


先日、こうしたクオータ制の導入に対する興味深い論文[1]を読む機会があった。この論文のポイントは、そもそも現実社会は必ずしも実力主義ではないなかで、(1)能力が低い政党幹部ほど、能力の高い候補者ではなく、能力の低い候補者を多く起用しがちであるということ。そして(2)スウェーデンでクオータ制が導入された際、「女性議員の平均能力を損なうことなく、男性議員の平均的な能力を上げ、さらに能力の低い幹部を交代させ、幹部の平均能力を引き上げた」ことが示された。そのため、著者は、クオータ制の導入は能力の高い男女が議会で活躍する道を開くためにも有効な手段なのではないか、と主張している。


日本も2018年5月に「政治分野における男女共同参画推進法(候補者男女均等法)」が成立し、政党と政治団体には、国と地方の議員選挙で男女の候補者が均等になるよう、女性候補者を増やす取り組みが求められている。男女比率の均等化は、より多様な視点を政策に反映させることに加え、能力ある人材が活躍するためにも重要な課題である。


[1]Besley, Timothy, Olle Folke, Torsten Persson and Johanna Rickne, "Gender Quotas and the Crisis of the Mediocre Man: Theory and Evidence from Sweden," American Economic Review, Vol.107, No.8, August 2017, pp.2204-2242
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