日本の携帯料金は高水準?

早いもので、菅内閣が発足して2カ月が経過した。菅首相が掲げている政策のなかでも特に注目を浴びているのは、携帯電話料金の値下げであろう。9月16日の記者会見[1]で、首相は「国民の財産の電波の提供を受け、携帯電話の大手3社が9割の寡占状態を長年にわたり維持して、世界でも高い料金で、20パーセントもの営業利益を上げ続けている事実」と述べた。実際に、2021年3月期第2四半期(2020年7月〜9月)連結累計期間決算では、大手3社(KDDI、ソフトバンク、NTTドコモ)ともに、前年同期比で営業増益となり、営業利益率は20%を上回っている。


日本の携帯料金は国際的にみて、本当に高水準なのだろうか。7月にリリースされた民間シンクタンクの調査[2]によると、2020年3月1日時点のスマートフォン料金は、日本を除く5カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国)の平均月額料金は、データ容量2GBで3,777円、5GBで4,233円、20GBで5,439円となっている。日本の月額料金は、2GBで4,021円、5GBで5,121円、20GBで7,135円とそれぞれデータ容量の5カ国平均を上回り、データ容量が大きくなるにつれて、5カ国平均との乖離幅も大きくなっている。他国に目を向けると、欧州(フランス、イギリス)は日本を大きく下回る料金である一方、アメリカや韓国は日本を上回る高水準となっている。


他方で、通信品質に目を向けてみると、4G接続率(利用者が4Gで通信している時間/利用者がモバイル網に接続し通信している時間)は日本が98.5%となっており、6カ国のなかで最も高い。欧州3国(イギリス89.2%、フランス86.0%、ドイツ85.8%)の4G接続率は80%台、携帯料金が高水準である韓国(98.3%)とアメリカ(96.1%)も、わずかであるが日本より接続率が低くなっている。また、ダウンロード通信速度については、日本(49.3Mbps)は韓国(59.0Mbps)に次ぐ速さで、調査対象の6カ国の中で2番目に速い(他の4カ国は20Mbps台の通信速度となっている)。このように、日本の携帯料金は、海外と比較して中~高水準にある[3]とみられるが、通信品質・速度の違いも念頭に置くべきだろう。


また、営業利益率については、携帯電話事業の寄与度がどの程度あるのかについて、正確に見極める必要があろう。各社の第2四半期決算短信(2021年3月期)をみると、KDDIは端末販売コストの減少やエネルギー事業の粗利の増加で営業増益となっている。ソフトバンクはテレワーク関連の商材需要の増加などで増収となった法人事業や、Eコマースなどが含まれるヤフー事業でのセグメント利益の増加幅が大きい。


企業の事業領域が近年ますます拡大・複雑化するなか、独占禁止法における「市場の画定」が、非常に困難になってきている。どの事業領域で競争度合いが高く、そして低いのかが曖昧になってしまうと、競争度合いが比較的高い事業領域で、値下げによってさらに競争が激化する懸念がある。


2019年10月から改正電気通信事業法が施行され、「通信料金と端末代金の完全分離」、「行き過ぎた囲い込みの是正」などが新たに盛り込まれた。直近ではMNOの第4キャリアとして楽天モバイルが新規参入しており、また、MVNOの契約件数も増加傾向にある。寡占状態にある携帯電話業界は一段の競争促進が望まれるものの、特定の市場で過度な競争激化が起これば、結果的に市場から企業が退出し、もとの寡占状態に戻ってしまうのではないだろうか。


[1] https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/0916kaiken.html

[2] ICT総研「2020年 スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」
https://ictr.co.jp/report/20200716.html

[3] 総務省は「電気通信サービスに係る内外価格差調査」として、携帯料金を含む電気通信サービスに係る内外価格差について、毎年調査を実施している。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban03_02000651.html

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