個人消費への影響が注目される総額表示の義務化

2021年4月1日、消費税込みの「総額表示」が義務付けられる。もともと総額表示は2004年から義務付けられていた。しかし、国は事業者側の価格表示切り換えにともなうコスト負担への配慮などから、経過措置として表示される価格が税込み価格であると誤認されないための措置を講じていれば良い、という特例を設けていた(財務省「消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン(総額表示義務の特例)について[1]」。なお、2016年11月の税制改正により、同特措法の適用期限が2018年9月30日から2021年3月31日に延長された)。以来16年、その特例が2021年3月31日で終了するのである。


「総額表示」の義務付けは、消費者に対して商品やサービスを販売する課税事業者が行う価格表示が対象となる。具体的には、値札や店内表示、商品カタログ、パッケージへの印字・貼付、新聞折込広告やダイレクトメールなどにより配布するチラシ、新聞、テレビ、ホームページ、電子メールなどの媒体を利用した広告、ポスターなどでの価格表示が対象である。


さらに、総額表示の対象となるのは消費者に対するいわゆる小売段階の価格表示であり、事業者間での取引(見積書や契約書、請求書など)は総額表示義務の対象とならないことには注意が必要であろう。また、口頭での価格の提示についても総額表示義務には含まれない。


国税庁のホームページ[2]をみると、具体的な表示例が掲載されている(標準税率10%の場合)。
・11,000円
・11,000円(税込)
・11,000円(税抜価格10,000円)
・11,000円(うち消費税額等1,000円)
・11,000円(税抜価格10,000円、消費税額等1,000円)


ここでのポイントは支払総額である「11,000円」が表示されていれば十分であり、消費税額や税抜価格が追加的に表示されていても構わない、ということである。そのため「10,000円(税込11,000円)」という表示も、総額表示に該当する。ただし、税込価格の文字を小さく表示することについては、当局にしっかり確認する必要があろう。


消費者にとっては実際の支払額が分かりやすくなり、そのメリットは大きいと言える。また、総額表示は、増税ではないので、この変更により負担が増えるわけではない。


しかし、事業者にとっては解決すべき課題も多い。例えば、198円や980円など消費者に安さを印象付ける価格(端数価格効果)をどうするか、という問題がある。ユニクロは3月12日(金)からすべての価格を総額表示に統一したが、これまで本体価格であった端数価格をそのまま消費税込みの価格とした。無印良品やワークマンなどでも同様の総額表示に切り替えている。つまり消費税分を実質的に値下げし、「税込みかつ端数価格」戦略を採用した。とはいえ、これは消費者に変わって事業者が負担することを選択したとも言える方法である。


また、消費税は複数品の合計額に対して計算される場合もあり、必ずしも個々の商品・サービスの総額表示を合計した金額と一致するとは限らない。こうした点も事業者は考慮する必要がある。


現在は、新型コロナウイルスにともなう緊急事態宣言が3月21日に解除され、少しずつ経済活動を活発化させる方向に舵を切り始めた段階である。また、日本経済の6割弱を占める個人消費の動向は景気を大きく左右する。総額表示の義務化から16年間の経過措置期間があったことは確かである。しかし、消費者が表示価格からどの程度の影響を受けるか、さらにその購買行動に与える効果を含めて、新型コロナウイルスによる落ち込みからの回復に向けて十分に注視する必要があろう。


[1]財務省「消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン(総額表示義務の特例)について
[2]国税庁「No.6902 『総額表示』の義務付け
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