需要喚起策は従来型経済を温存、新たな社会に向けた投資を

世界経済の成長率見通しが少しずつ上向きになってきた。


IMF(国際通貨基金)が4月6日に公表した「世界経済見通し」[1]によると、世界全体の経済成長率は2021年6.0%、2022年4.4%になると予測されている。2021年と2022年の成長率は2021年1月時点よりそれぞれ0.5ポイント、0.2ポイント引き上げられた。


同見通しでは、上方修正の要因として"一部の経済大国における追加の財政支援や、年後半にワクチン接種効果による景気回復が期待されること、移動量の低迷への適応が続くこと"をあげた。しかし、"パンデミックの今後の展開や、ワクチンがけん引する経済活動の正常化が進むまでのつなぎとなる政策支援の有効性、金融環境の動向に関して、予測を取り巻く不確実性は大きい"といった点も指摘している。


一方、日本に対する経済見通しは厳しい予測となっている。2020年の経済成長率は、欧州諸国と比べると下落が小幅だったものの、感染拡大を早期に抑え込みプラス成長となった中国はもとより、感染者数が世界最多だったアメリカ、東アジアでは当初の封じ込めに成功した韓国と比較して低調だったことは明らかである(下表参照)。


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さらに、2021年の経済成長率は3.3%と世界全体の6.0%を下回るだけでなく、先進主要国(G7)+中国・韓国のなかで最も低い成長が見込まれている。2022年には新型コロナウイルスの影響が拡大する前の経済水準(2019年)を上回ると予測されているが、わずか0.7%にとどまる。


IMFも「世界経済見通し」のなかで"回復の程度には地域差がある"と述べているものの、それは主に開発途上国を対象としており、日本の回復力の弱さは気になるところである。
特に中国は2022年には2019年比で17.1%増、アメリカも同6.3%増と予測されており、経済規模における日本の相対的地位は一段と低下することになる。


なぜ日本の回復がこれほど遅れているのだろうか。もちろん、主要国と比較してワクチン接種が広がっていないことで、経済活動の正常化に向けた進捗が芳しくないこともあろう。


しかし、そのこと以上に、新たな経済社会に対応した取り組みが官民ともスピード感に欠けていることはないだろうか。例えば、アメリカの落ち込みが小幅にとどまったのは、新型コロナ禍においても業績を伸ばした企業が数多く表れたことが指摘されている。その代表例がビデオ通話サービスで急成長したZoomである。また、GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)をはじめとしたプラットフォーム企業も顕著に成長している。


さらに、ロックダウンなど都市封鎖が行われたなか、在宅勤務に移行した多くの企業でさまざまな新商品・サービスを生み出したことが、欧米経済の落ち込みを抑え、今後の回復に向けたけん引役になるとみられている。


これらを担うのは企業のイノベーションである。2020年度にGoToキャンペーンなど新型コロナ禍において多額の需要喚起策が打ち出されたが、これだけでは一時的な対応策となり、かつ従来型の経済システムを先延ばしする可能性がある。新型コロナウイルスが収束すれば、落ち込んでいた需要の大部分は回復に向かうであろう。いま求められるのは、より生産性の高い企業や産業が経済を動かす社会への変化であり、そのための投資を官民一丸となって進めることではないだろうか。


[1]IMF, World Economic Outlook, April 2021(https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2021/03/23/world-economic-outlook-april-2021

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