緊急事態宣言下で酒類の提供禁止に思うこと

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、政府は東京都および大阪府、京都府、兵庫県を対象に、2021年4月25日から三度目となる緊急事態宣言を発出した。東京都では、人の動きを抑制することを目的として、酒類やカラオケ設備を提供する飲食店などに休業が要請されている。


酒類を製造、販売する業種においては、2020年以降景況感の悪化が深刻だ。下図は帝国データバンク業種小分類で算出した景気DIの推移である(帝国データバンク「TDB景気動向調査」)。この図をみると、2020年3月以降いずれの業種も景気DIが大幅に悪化していたことがわかる。特に、一度目の緊急事態宣言が発出されていた2020年4月から5月にかけては、「料亭、遊興飲食店、酒場、ビヤホール」の景気DIは0.0となっており、すべての企業で現在の景況感が「非常に悪い」とみていたことになる。


6月以降、酒類に関連した業種において景気DIは持ち直しの動きがみられたものの、その動きは新型コロナウイルスの感染の波にあわせて変動していることもうかがえる。2度目の緊急事態宣言が発出された2021年の1月においては、「料亭、遊興飲食店、酒場、ビヤホール」の景気DIは再び0.0まで落ち込んだ。


2021年3月調査においても、企業から「依然として新型コロナウイルスの影響があり、時短要請などで休業する店舗が多く飲食店向けの販売が低調」(酒類卸売)や「新型コロナウイルスの終息が不透明であり、終息しても市場がもとに戻るには時間がかかる」(清酒製造)といった声が寄せられており、厳しい状況が続いている。


【図:酒類に関連した業種の景気DIの推移(2019年1月から2021年3月まで)】

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東京都では緊急事態宣言の発出で、酒類を提供する飲食店に対し休業を要請、酒類を提供しない飲食店に対しても時短営業を要請することになる。しかし、こうした酒類の提供の取りやめや時短営業が、新型コロナウイルスの感染拡大阻止へどの程度効果があるのだろうか?


厚生労働省のHPに掲載されている「(2021年3月時点) 新型コロナウイルス感染症の"いま"に関する11の知識」[1]には、新型コロナウイルスの感染リスクが高まる「5つの場面」として(1)飲酒を伴う懇親会等、(2)大人数や長時間におよぶ飲食、(3)マスクなしでの会話、(4)狭い空間での共同生活、(5)居場所の切り替わり、の5つの場面があげられている。今回の緊急事態宣言にともなう強い人流の抑制措置は、従来のウイルスより感染力が強いとされる変異株への徹底した対策と考えられるが、「大人数」で「長時間」におよび3密の環境にいる際に感染リスクが高まるのであって、飲食店で飲酒をすること自体がリスクを大幅に高めているわけではないだろう。


極力少人数もしくは「おひとり様」で黙々と飲食をしていれば(当然、食事をしていない際のマスク着用や、手洗い・アルコール消毒、ソーシャルディスタンスの確保、アクリル板の設置などを実施したうえであるが)、感染リスクはある程度軽減できるはずである。今回の緊急事態宣言での対応も含めてこれまでの施策は、大人数での会食を禁止するために少人数向けも含めて自粛しているようで、ただ単に不合理だと感じる。


さらに最近では、「路上飲み」といった迷惑行為もみられるようになった。飲食店が営業自粛したところで、路上で感染が拡大しては元も子もない。経済学でいうところの「負の外部性」が発生しているのである。


そうしたなかで緊急事態宣言の解除後、例えば「おひとり様」に対してGo To キャンペーンの割引率を大きくするなど、「人数」にインセンティブを設けた施策が有効であるように感じられる。今後も苦境が予想される飲食店の回復と、感染拡大防止を両立できる施策の実施を切に願う。


[1] https://www.mhlw.go.jp/content/000749530.pdf
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