不足するデジタル人材「230万人」をいかに育成するか

企業においてデジタル人材の不足が叫ばれて久しい。国際経営開発研究所(IMD)が2021年9月に公表したデジタル競争力ランキングでは、主要64カ国・地域で日本は28位と、2017年に同調査が開始されて以降で最も低い順位となった。


また、帝国データバンクが2021年12月に実施した「DX推進に関する企業の意識調査」では、デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)に取り組むうえで、半数を超える50.6%の企業が「対応できる人材がいない」ことを課題にあげている。政府が推進する「デジタル田園都市国家構想」の基本方針においても、2026年までにエンジニアやデータサイエンティストなどDXの推進を担うデジタル人材を「230万人」育成すると定めており、社会全体でデジタル人材の育成を加速させる必要がある。


デジタル人材の増加に向け、大学などでも人材育成が進んでいる。3月11日に、文部科学省は国内の大学・短大・高等専門学校合わせて39校を「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」の事業実施機関に決定した。これらの事業実施機関を中心に、年間17万人のデジタル人材を輩出する予定となっているが、上述の「2026年度までに230万人」といった目標に対しては、大幅に不足している。


そうした不足について、政府は現役社会人(6,800万人)に向けてリカレント教育・リスキリングすることで補うとしているが、産官学がどのように連携してデジタル人材を拡大していくか不透明な部分も大きい。デジタル人材に限らず、そもそも人手が不足している企業が47.8%と半数近くに及ぶなか(帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)」)、既存の社員に対しどのようにリスキリングを進めていくかは、今後の中小企業にとって大きな課題となる。


従業員が現場で仕事を進めつつ仕事を教わることをOn-Job Training(OJT)、集合研修など職場や通常の業務から離れて行う研修をOff-Job Training(Off-JT)と呼ぶ。4月に中小企業庁から発表された2022年版中小企業白書によれば、計画的なOJT、Off-JTを併せて実施する企業では、2015年から2020年の売上高増加率は9.5%となった。計画的なOJTのみを実施する企業の増加率は7.9%、Off-JTのみを実施する企業は6.2%、OJT、Off-JTともに実施しない企業は3.4%となっており、OJT、Off-JTをともに実施する企業の増加率が最も高い。


2019年時点で、自社において生産性の向上に最も効果がある人材育成方法として、60.1%の企業がOJTをあげていた一方で、Off-JTは9.5%にとどまっていた(帝国データバンク「2019年度の雇用動向に関する企業の意識調査」)。人手不足が続く中小企業においては就業時間内での教育訓練は難しい側面があるが、デジタル人材の拡大に向けて通信教育や民間の職業訓練施設を活用したOff-JT、自己啓発や資格取得への奨励制度(SDS)もより必要となろう。

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