2023年ノーベル経済学賞受賞者の研究が示唆する「男女賃金格差」の本当の原因

今年のノーベル経済学賞の受賞者に、労働市場における男女格差を研究した米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏が選ばれました。「女性活躍」「男女格差」は、近年話題の世界共通の目標である「SDGs」に含まれているほか、世界的に広がっている「ESG投資」の一つの指標であるなど、これまで以上に重要視されています。今回の受賞はまさにタイムリーなテーマでした。


ゴールディン氏は米国の200年以上にわたるデータを用いて、女性労働の歴史や男女の賃金格差の原因等について研究を行っています。なかでも私が個人的に気になっているのは、日本で度々指摘される「男女間賃金格差」問題の原因とその解決策でした。

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ゴールディン氏によれば、歴史的には教育水準や職業の選択が男女間の賃金格差を生み出すものとみられます。しかし、現在はそういった条件が同じでも、「子どもの誕生」が格差を作る主な要因となっていると指摘しました。背景には、女性に偏りがちな育児の負担が職場におけるキャリアアップ・収入増を難しくすることがあげられています。特に高い賃金をともなうものの、家族など他のすべてのことよりも仕事を優先することを要求する仕事である「貪欲な仕事(greedy work)」の存在が女性の収入の増加をより難しくし、男女間の格差を広げるということです。


日本でも同様の要因が考えられるのでしょうか?


まず、日本の男女間の賃金格差の現状について確認してみました。厚生労働省の発表[1]によると、正社員・正職員の一般労働者の月額平均賃金について、男性は35万3,600円に対し、女性は27万6,400円と、同じ正規雇用でも男性の賃金に対する女性の賃金の割合は8割未満となっています。


また、OECD(経済協力開発機構)の発表[2]では、日本の男女間賃金格差(フルタイム)[3]は21.3%とOECD加盟44カ国の平均(11.9%)の2倍近くにのぼり、順位はワースト4位です。

OECD各国の男女間賃金格差

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日本の男女間の賃金格差の要因について、女性の非正規雇用比率の高さがよくあげられていますが、上述のように同じ雇用形態においても男女間に賃金格差が大きく現れています。その背景としてよく議論されているのは「女性管理職の少なさ」や「勤続年数の短さ」ですが、これらを生み出す一因はまさにゴールディン氏が指摘した「子どもの誕生」や「貪欲な仕事」の存在といえます。


特に、日本特有の年功序列の存在は、出産等で退職することが多い女性の平均勤続年数を短くする一因でしょう。また、日本における家事や育児などといった「無償労働」の女性負担は世界的にみても大きく[4]、それがキャリアアップ・収入増を妨げ、全体的な勤続年数の低下を来たし、男女間賃金格差が世界と比べて大きいという結果をもたらしたと考えられます。


ゴールディン氏は、賃金格差の解決策として、政府によるさらなる子育て支援や企業における柔軟な働き方の促進、男性育休の推奨などをあげていましたが、これは日本においても例外ではないでしょう。加えて、年功序列など日本独特の人事制度の見直しも必要になってくるといえます。


帝国データバンクが実施した調査[5]をみても、中小企業を含む約1万1,000社の女性管理職割合の平均は9.8%と、1割に届きませんでした。政府目標の「女性管理職30%」を超えている企業も9.8%で、依然として1ケタ台にとどまっています。他方、男性の育休取得率の平均は11.4%と1割程度となっており、依然として男女間の賃金格差の是正には多くの課題が残っています。


また、別の調査[6]では、SDGsのジェンダー平等に関する目標に力を入れている企業は12.2%、今後"最も"取り組みたい目標については3.1%にとどまっており、企業における男女格差に関する取り組みはなかなか進んでいないようにみられます。


今回のノーベル経済学賞の受賞を機会に、日本を含む世界各国で男女格差に関する意識がさらに高まり、誰もが働きやすく、格差のない社会が実現されることに期待が膨らむばかりです。



[1]厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」

[2]OECD「男女間賃金格差 (Gender wage gap)」(2022年もしくは各国の最新データ)

[3]「男女間賃金格差」は、男性所得の中央値に対する男性と女性の所得中央値の差と定義されている

[4] OECDの発表では、日本の「無償労働」の女性負担は男性の5.5倍、OECD平均は1.9倍という統計が示されている

[5]帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2023年)」(2023年8月17日発表)

[6] 帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2023年)」(2023年7月27日発表)











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