企業経営者の感覚による倒産傾向の予測(2022年3月)

サービス・小売業における政策効果の大きさを示唆
~業種ごとに異なる倒産傾向を予測~

【要約】

  1. 帝国データバンク・産業分析レポート「企業経営者の感覚から、倒産傾向を予測できるか」において提案されたモデルを、新型コロナショック前の2019年以前のデータを用いて業種別に予測できるように構築した。

  2. 倒産件数を予測したところ、2020年6月以降の予測において予測値と実績値の乖離が生じた。政策効果により実際の倒産件数が経営者の景況感よりも低水準で推移していたためと考えられる。

  3. 特にサービス・小売業においては、倒産件数の急激な増加を予測する結果となり、最も乖離が大きかった。サービス・小売業に対する政策効果の影響は他業種よりも大きいことが示唆された。

  4. 【数理モデルを用いて推定したサービス・小売業の月次倒産件数の予測】
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帝国データバンク・予測レポート「企業経営者の感覚から、倒産傾向を予測できるか」[1]において提案された手法を基に、新型コロナショックの影響を除くために、新型コロナウイルスの影響が生じる前である2019年以前の倒産とTDB景気DIデータを用いて、業種別に最適なモデル構築を行った。本レポートでは、業種ごとに予測精度が最も良かったモデルの予測に対する分析結果を報告する。


  1. 倒産件数の予測手法
    倒産件数の予測手法として、帝国データバンク・経済分析レポート「企業経営者の感覚から、倒産傾向を予測できるか」[1]において提案された手法を基にした。[1]では経営者の景況感を示すTDB景気動向指数(TDB景気DI)(※1)を用いた倒産件数の予測が高精度であることが示されていた。本稿においても同様に倒産件数がポアソン分布に従うと仮定したモデルを構築するが、日本が正常な経済状況における業種ごとの倒産件数を予測することを目的とする。そのために、モデルを学習するデータの期間を、新型コロナウイルスが日本で流行していない2019年以前とし、また、下記の5つの業種にデータを分割し、2019年7月から同年12月までの期間内で予測精度が最も高いモデルを採用した。


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  2. TDB景気DIによる業種別の倒産件数予測
    構築したモデルを用いて、2022年3月までのTDB景気DIでの予測結果を示していく。

    図1が製造業、図2が建設・不動産業、図3が卸売業、図4がサービス・小売業、図5がその他の業種でのモデルによる倒産件数の予測結果である。図の薄い灰色で示した部分は、緊急事態宣言が発令されていた期間であり、濃い灰色で示した部分が予測期間を示している。ただし、2020年5月のみは緊急事態宣言の発令により裁判所の業務が縮小し正確に倒産件数が記録できていないため、モデルの推定に利用するデータから除いた。


    【図1 製造業における倒産件数予測(2015年1月以降)】
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    【図2 建設・不動産業における倒産件数予測(2015年1月以降)】
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    【図3 卸売業における倒産件数予測(2015年1月以降)】
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    【図4 サービス・小売業における倒産件数予測(2015年1月以降)】
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    【図5 その他の業種における倒産件数予測(2015年1月以降)】
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    図1~5の2020年6月以降の予測をみると、その他(図5)以外の業種では実績値と予測値の乖離が生じていることが確認できる。実績値については、新型コロナウイルスの影響拡大を受け企業の事業継続を目的に導入された実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)が強く作用し、2020年6月以降の倒産件数が経営者の景況感よりも低水準で推移していたと考えられる。一方、予測値は2019年6月以前のデータでパラメータの推定を行っており、新型コロナウイルスによる影響がないため、予測値と実績値の乖離が生じたと考えられる。これにより、今回導入された政策が倒産件数に対して大きな影響を与えているということが確認された。


    また、図4のサービス・小売業の予測のみ急激な上昇傾向を予測しており、最大の差分で約240件の実績と予測の倒産の乖離が発生している。サービス・小売業は新型コロナウイルスの影響によって、TDB景気DIが顕著に悪化した業種であり、経営者の感覚からすると現在の倒産よりも遥かに多くの倒産を見込んでいたことが分かる。この結果は、政策効果の影響が明瞭に表れた予測結果となったといえる。

  3. まとめ
    本レポートでは、経営者の景況感を示すTDB景気DIを用いて、業種別に倒産件数の予測を行った。その結果、業種ごとに景況感が倒産件数に反映されるまでの時間が異なることと、実質無利子・無担保融資の倒産件数に対する影響が確認された。また、実質無利子・無担保融資の影響は業種によって異なることが示唆された。


※1 : TDB景気動向調査(https://www.tdb-di.com


(参考文献)
[1] 帝国データバンク・経済分析レポート「企業経営者の感覚から、倒産傾向を予測できるか」2021年1月26日

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