2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査

2022年度の賃金動向、企業の54.6%で賃金改善を見込む
~総人件費の「増加」を見込む企業は67.1%と前年から大幅増~

厚生労働省が2月8日に発表した毎月勤労統計調査(令和3年分結果速報)によると、名目賃金にあたる平均現金給与総額は、前年比0.3%増と3年ぶりに増加に転じた。一方、原材料価格や原油の高騰が続くなか、物価変動の影響を取り除いて算出される実質賃金は前年から横ばいとなった。そうしたなか、1月17日の施政方針演説において岸田首相が賃上げなど人への投資の重要性を訴え、また政府は賃上げ促進税制で賃上げをバックアップする方針を示している。


そこで帝国データバンクは2022年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2022年1月調査とともに行った。

  • 調査期間は2022年1月18日~2022年1月31日、調査対象は全国2万4,072社で、有効回答企業数は1万1,981社(回答率49.8%)。なお、賃金に関する調査は2006年1月以降、毎年1月に実施し、今回で17回目
2022年度の賃金改善見込み
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調査結果


  1. 2022年度、企業の54.6%で賃金改善を見込む。ベースアップは過去最高の水準に

    2022年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む企業は54.6%となり、2年ぶりに5割を上回った。一方、「ない」と回答した企業は19.5%と前回調査(28.0%)から8.5ポイント低下した。


    賃金改善状況の推移

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    賃金改善の状況について企業規模別にみると、「大企業」「中小企業」「小規模企業」の3規模全てで、前回調査の2021年度見込みから賃金改善見込みの割合が上昇していた。また、業界別にみると、『製造』(59.7%)が最も高く、『建設』(57.2%)や『サービス』(54.0%)が続いている。


    企業からは、「賃金の上昇により、消費の増加に期待」(各種機械・同部分品製造修理、長野県)や「事業環境的には厳しいものがあるが、社員の定着のためには賃上げは必要と考えている」(一般管工事、北海道)、「新型コロナウイルス対策で仕事が減少し売り上げも悪いが、一旦雇用をカットすると再雇用は難しい。今頑張っている人をギリギリまで大切にしたいため、賃金アップは仕方なく、世の中の物価上昇にもあわせるべきと考える」(喫茶店、東京)といった声が聞かれた。

  2. 賃金改善の2021年度見込みと2022年度見込みの比較 ~規模、業界別~

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    賃金改善の具体的な内容をみると、「ベースアップ」が46.4%(前年比10.5ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.7%(同7.4ポイント増)となり、それぞれ増加した。「ベースアップ」は2019年度の45.6%を上回り、調査開始以降で最高の水準となった。


    賃金改善の具体的内容

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  3. 賃金改善の理由、「労働力の定着・確保」が最多。一方、原材料の高騰はマイナス材料
    2022年度に賃金改善が「ある」と回答した企業に、その理由を尋ねたところ、人手不足などによる「労働力の定着・確保」が76.6%(複数回答、以下同)と最も多かった。企業からは、「建設労働者不足を解消するためにも賃金アップは必要不可欠」(土木工事、神奈川県)や「高校生の新卒求人が難航している。求人基本給を上昇させるためにも現従業員の賃金底上げを計画している。それにともない社内賃率の改定を行っているが、なかなか客先で承諾してくれるところが少ない」(金属プレス製品製造、福島県)といった声があげられた。


    また、「労働力の定着・確保」以外の賃金改善する理由としては、「自社の業績拡大」(38.0%)、「物価動向」(21.8%)、「同業他社の賃金動向」(18.4%)、「最低賃金の改定」(17.9%)が続いている。


    賃金を改善する理由(複数回答)

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    他方、賃金改善が「ない」企業にその理由を尋ねたところ、「自社の業績低迷」が64.7%(複数回答、以下同)と2021年度見込み同様に最も多くなった。


    また、「同業他社の賃金動向」(17.6%)や新規採用増や定年延長にともなう人件費・労務費の増加といった「人的投資の増強」(15.5%)、物価動向(14.2%)が続く。


    賃金を改善しない理由(複数回答)

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    賃金改善が「ある」、「ない」ともに、「物価動向」を理由にあげる企業が2021年度見込みと比べ上昇している。帝国データバンクが2022年1月に実施した「原材料不足や高騰にともなう価格転嫁の実態調査」[1] によると、原材料の不足や高騰の影響を受けている企業は77.3%となった。また、原材料価格の高騰に対して少なからず価格転嫁ができている企業は4割程度に留まっている。


    そこで、価格転嫁の状況別に、賃上げの有無を確認した。結果、「影響はあるが、価格転嫁は全てできている」(60.9%)や「8割程度できている」(65.7%)、「5割程度できている」(63.7%)など、5割以上の価格転嫁ができている企業においては、6割を超える企業で2022年度に賃金改善があると見込んでいた。一方、「2割程度できている」(58.7%)や「価格転嫁は全くできていない」(51.8%)は5割台となり、価格転嫁が進んでいない企業では、進んでいる企業と比べて賃金改善が「ある」割合が低い傾向となった。


    原材料不足や高騰の影響と価格転嫁の状況

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    賃金改善の有無〜価格転嫁の状況別〜

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    企業からの声では、「物価上昇にあわせて賃金を上げていくことは重要だと考えているが、産業構造が大きく変わっていくなか、原資を確保していけるように変化していかないといけない」(工業用ゴム製品製造、愛知県)と、物価の上昇にあわせて賃金改善へ前向きに取り組む企業もある。一方、「仕入価格が急上昇しているなかで利益が圧迫されている状況。売り上げも下降気味であり、賃金に振り分ける余裕もない」(一般貨物自動車運送、茨城県)、「賃金は上げていきたい。しかし、仕入価格の上昇、販売価格反映の拒否があり、困難な状況」(金型・同部分品・付属品製造、埼玉県)など、原材料価格の高騰がマイナス材料となり、賃上げを厳しくみている企業も多い。

  4. 2022年度の総人件費、「増加」を見込む企業は67.1%。2021年度から一転し大幅増
    政府は2021年12月に発表している賃上げ促進税制[2]において、資本金1億円超の企業向けでは、「継続雇用者の給与等支給額が前年度比で3%以上増加」した企業へ15%~30%、資本金1億円以下の企業向けでは、「雇用者全体の給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加」した企業へ15%~40%の税額控除をするとしている。


    そこで、2022年度の自社の総人件費が2021年度と比較してどの程度変動すると見込むかを尋ねたところ、「増加」[3]を見込んでいる企業は、67.1%と2021年調査から12.9ポイント増と大幅に増加していた。一方、「減少」すると見込む企業は8.7%(前年比7.0ポイント減)となった。その結果、総人件費の増加率は前年度から平均2.68%増加すると見込まれる[4]。

    2022年度の人件費の見通し

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    また、資本金1億円超の企業において、総人件費の増加率が3%以上とした企業は27.2%、資本金1億円以下の企業において、総人件費の増加幅が1%以上とした企業は67.7%となった[5]。


まとめ

依然として新型コロナウイルスの感染拡大や、燃料、原材料価格の高騰による影響が多くの企業で継続するなか、政府は賃上げ目標3%の達成に向けて、賃上げ促進税制など、企業をバックアップする姿勢を打ち出している。


本調査の結果をみると2022年度に賃金改善を見込む企業は54.6%となり、2020年度見込み以来、2年ぶりに半数を上回った。総人件費も67.1%で上昇を見込み、2021年度から12.9ポイントの大幅な増加となった。


一方、原材料価格の高騰など物価動向の影響を受けて、賃金改善に消極的な企業も散見された。特に、価格転嫁が進んでいない企業においては、賃金改善がある割合も低下する傾向がみられる。


賃金改善が「ある」と見込む理由としては、依然として「労働力の定着・確保」が最も多い傾向に変わりはない。企業の人手不足感が再び高まるなか、賃金改善の動向は今後の経済を見通す上でより重要な要素となってきている。


加えて、2021年以降は原材料価格の高騰などで、企業の収益環境はより厳しさを増してきている。そうしたなか、今後の賃金改善を促進するためには、より企業の生産性を高めるための施策(DX投資、従業員へのリカレント教育など)へ注力する必要があろう。


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[1] 帝国データバンク「原材料不足や高騰にともなう価格転嫁の実態調査」(2022年2月9日発表)

[2] 経済産業省「税制について」(賃上げ促進税制について)

[3] 「増加」(「減少」)は、「10%以上増加(減少)」「5%以上10%未満増加(減少)」「3%以上5%未満増加(減少)」「1%以上3%未満増加(減少)」の合計

[4] 総人件費の前年度からの増加率は、「10%以上増加(減少)」を10%、「5%以上10%未満増加(減少)」を7.5%、「3%以上5%未満増加(減少)」を4%、「1%以上3%未満増加(減少)」を2%、「変わらない」を0%として各選択肢の回答企業数で加重平均を取ることにより算出している

[5] 資本金1億円超の企業の母数は988社、資本金1億円以下の企業の母数は10,993社



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