経済安全保障に対する企業の意識調査

経済安保、「インフラ」「サプライチェーン」で38.9%を占める
~ 中小企業は「関係ない」「分からない」が6割超 ~

近年、産業基盤のデジタル化により、サイバー攻撃による脅威・影響が目立ってきた。新型コロナウイルス感染症拡大によるサプライチェーンの混乱で半導体不足の影響も甚大となり、直近はロシア・ウクライナ情勢の長期化により企業の経済活動に対するリスクが顕在化している。政府は2021年11月に「経済安全保障法制に関する有識者会議」を設置し議論を重ね、5月11日に経済安全保障推進法(以下、経済安保法)が成立した。


そこで、帝国データバンクは経済安全保障に関する企業の見解について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2022年5月調査とともに行った。

  • 調査期間は2022年5月18日~5月31日、調査対象は全国2万5,141社で、有効回答企業数は1万1,605社(回答率46.2%)
  • 本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している


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調査結果
  1. 「基幹インフラ機能の安全性・信頼性の確保」がトップ

    経済安保法で取り組むべき分野[1]として提示された「サプライチェーン(SC)の強靱化」、「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」、「官民技術協力」、「特許出願の非公開化」のうち、自社の企業活動にとって最も関係があると思う項目はどれかを尋ねたところ、「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」(20.9%)がトップとなり、次いで「SCの強靱化」(18.0%)が続いた。


    「官民技術協力」、「特許出願の非公開化」はいずれも5%未満となり、自社に関係するとみている企業は少なかった。


    全体の半分以上である54.8%が「関係はないと思う」「分からない」と認識していた。特に「小規模企業」は、「関係はないと思う」「分からない」の合計が63.2%と6割にのぼった。同法が5月11日に成立してから施行まで半年(または1年)が予定されており、具体的な内容が示されていないなか、多くの企業が自社と経済安保法の関係性を図りかねている結果となった。

    経済安保の自社への影響

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    【経済安保に関する全体的な企業の声】

    • 「ロシアやウクライナが苦慮する事象を見ると、食糧やエネルギーの強靱化や安全保障が一番大事だと思う」(食料品製造、北海道)
    • 「電子部品の入手難で製品の出荷遅れが発生しており、サプライチェーンの強靭化は避けて通れない。基幹インフラは、電力の供給問題と通信インフラのサイバー攻撃対策が喫緊の課題」(電子応用装置製造、大阪府)
    • 「経済における安全保障上の信頼性が向上することは好ましいが、それにともなう企業活動への制約や規制強化に繋がらない努力をしてほしい」(フェルト・不織布製造、東京都)
    • 「海外に依存しているサプライチェーンを国内へ回帰すれば自社の仕事の営業チャンスが増えるので期待する」(製缶板金、熊本県)
    • 「経済安全保障を理由として自社の情報システムが監視され、情報が盗み取られることがないように、法整備を期待する」(特許事務所、東京)


  2. 基幹インフラは『金融』、サプライチェーンの強靱化は『製造』がトップ

    「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」あるいは「SCの強靱化」と回答した企業を規模別にみると、いずれも規模の大きい企業ほど、経済安保が自社の経済活動に関係すると考えている割合が高かった。「大企業」「中小企業」「小規模企業」のすべてで、「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」が関係するとした割合の方が高く、「大企業」ほど顕著になっている。


    業界別では、「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」の割合が最も高かったのは、『金融』の28.4%だった。以下、『サービス』(26.1%)、『建設』(25.7%)、『運輸・倉庫』(22.4%)が20%を超えていた。


    「SCの強靱化」の割合が最も高かったのは、『製造』で27.1%。次いで、『卸売』(22.0%)、『農・林・水産』(18.7%)が続いた。

    経済安保の自社への影響 ~規模別、業界別~

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    【経済安保に関する全体的な企業の声】

    • 「製造業にとって基幹インフラの安全性・信頼性は非常に重要であり、特に電気・ガス・水道の供給不安が起こった場合には事業継続が難しい状況になる」(水産食料品製造、茨城県)
    • 「メーカーや卸売業は立場が弱く、取引の継続有無を盾に不利な状況となることが多いので、大手企業を中心に是正してほしい」(清涼飲料卸売、徳島)
    • 「商品のスムーズな流通や、輸送費の安定化、交通インフラの安全性が確保されることが必須であり、流通に関わる人材の確保も欠かせない」(酒類卸売、北海道)
    • 「国民の生存に不可欠な物資である国産の農作物に対して、農業者の収入や農作物の価格保証を補償する制度を期待する」(施設野菜作農業、長崎県)
    • 「中国や東南アジアの工場からの住宅建材輸入が一部滞っている。建材メーカーは生産現場の国内回帰を促進した方が良い」(不動産代理・仲介、愛媛県)


  3. BCPを策定・検討している企業ほど経済安保への関係性が「ある」と認識

    経済安保法の自社への影響とBCPの策定状況[2]との関係をみると、BCPの策定に前向き(「策定している」「現在、策定中」「策定を検討している」)な企業では、「SCの強靱化」や「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」をあげた企業の割合がいずれも20%を超えた。一方で、「策定していない」企業の割合は、BCPの策定に前向きな企業を大きく下回っていた。BCP策定への取り組み状況と経済安保の関係では、特に「SCの強靱化」「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」において顕著な特徴が表れる結果となった。

    経済安保の自社への影響~BCP策定状況別~

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  4. 仕入数量の確保難に直面している企業で「SCの強靱化」への影響を高く認識

    帝国データバンクが2022年4月に実施した調査において、原材料高や円安、ロシア・ウクライナ情勢の影響等を受けて、仕入数量の確保難および仕入価格の高騰に直面していると回答した企業[3]と、今回の経済安保との関係をみると、「仕入数量の確保難」に直面している企業において、「SCの強靱化」(22.2%)をあげる企業が全体を4.2ポイント上回った。

    経済安保の自社への影響~仕入数量・仕入価格の影響別~

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  5. まとめ

    経済安保法の企業活動への関係性について、業種によって関心のある項目に差異がみられた。なかでも、新型コロナやロシア・ウクライナ情勢によって仕入数量の確保や仕入価格の高騰に直面している企業ほど、サプライチェーンを強化することへの関心がより高い。経済安保を事業継続計画(BCP)との関係性から見た場合でも、BCPを策定したり検討している企業ほど経済安保への関心がより強くなっている。特に、基幹インフラの安全性や信頼性に関して、その傾向が顕著に表れていた。経済安全保障に関する法律について政府が具体化するにあたっては、産業や企業規模による注目点を踏まえた、きめ細かい経済安保体制を整備していくことが非常に重要となろう。



    [1]経済安全保障推進法では以下の4本柱が策定されている。
    1.【サプライチェーンの強靱化】
    国民の生存や、国民生活・経済活動に甚大な影響のある物資の安定供給の確保を図るため、特定重要物資の指定、民間事業者の計画の認定・支援措置、特別の対策としての政府による取組等を設置。
    2.【基幹インフラの安全性・信頼性の確保】
    基幹インフラの重要設備が我が国の外部から行われる役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されることを防止するため、重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査、勧告・命令等を措置。
    3.【官民技術協力】
    先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用のため、資金支援、官民伴走支援のための協議会設置、調査研究業務の委託(シンクタンク)等を措置。
    4.【特許出願の非公開化】
    安全保障上機微な発明の特許出願につき、公開や流出を防止するとともに、安全保障を損なわずに特許法上の権利を得られるようにするため、保全指定をして公開を留保する仕組みや、外国出願制限等を措置。

    [2]帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)」(2022年6月14日発表)

    [3]帝国データバンク「ロシア・ウクライナ情勢による企業の仕入れへの影響調査」(2022年5月16日発表)。同調査および本調査の両方に回答した企業を対象に分析を行った。



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