リスキリングに関する企業の意識調査

DX推進レベルでリスキリング取組状況にギャップ
~リスキリングに取り組む企業、DX取組企業は81.8%、未取組企業は32.2%~

2022年10月に閣議決定された政府の総合経済対策では、「構造的賃上げと成長力の強化を図り、官民連携のリスキリングと成長分野への投資推進、人への投資の支援パッケージを5年間で1兆円へ拡充」の方針が掲げられた。


リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する・させること」と定義される。昨今は、デジタル化とともに新しい職業が生まれ、仕事の進め方も大きく変わりつつある。リスキリングは単なる個人学習ではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進などで新たに必要となるスキルの習得を、企業が主導して取り組んでいくことが求められる。


帝国データバンクでは2022年9月に「DX推進に関する企業の意識調査」を実施し、企業のDX、リスキリングの取組状況を調査した。

  • 調査期間は2022年9月15日~9月30日、調査対象は全国2万6,494社で、有効回答企業数は1万1,621社(回答率43.9%)
  1. DX推進とリスキリング取組状況の関連性

    1-1.DX取組企業のリスキリング取組割合81.8%、DXの推進と一定の相関
    リスキリングについて、何らかの取り組みを1つ以上実施している企業(「取り組んでいる」企業)は全体の48.1%、「特に取り組んでいない」企業は41.5%であった。DXの取組状況ごとにみると、DXに取り組んでいる企業(以下、DX取組企業)のリスキリング取組割合は81.8%に上った。一方、DXに取り組んでいない企業(以下、DX未取組企業。「取組意向あり」を除く)のリスキリング取組割合は32.2%にとどまり、DX推進とリスキリング取組状況の間で一定の相関がみられることが浮き彫りとなった。


    リスキリングの取り組み

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    企業のリスキリング取組状況

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    1-2.リスキリング取組内容、「新しいデジタルツールの学習」、「eラーニングの活用」が上位
    DX取組企業のうち、リスキリング取組内容上位はオンライン会議システム、BIツールなど「新しいデジタルツールの学習」56.8%、「eラーニング、オンライン学習サービスの活用」35.3%の順となり、DX取組企業では日々の業務に直結する取り組みが上位に並ぶ。


    一方、DX未取組企業(「取組意向あり」を除く)のうち、取組内容上位には、「経営層による新しいスキルの学習、把握」41.5%、「経営層から従業員に学習が必要なスキルを伝達」29.1%と経営層の学習に関連するものがあがった。


    DX取組企業・未取組企業のリスキリングの取組内容

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  2. 取組状況、「大企業」は60.4%、「中小企業」は45.8%

    規模別にみると、「大企業」のリスキリング取組状況が60.4%に達したのに対し、「中小企業」は45.8%にとどまった。取組内容をみると、「新しいデジタルツールの学習」が大企業58.1%・中小企業46.0%(12.1pt差)、「eラーニング、オンライン学習サービスの活用」は大企業39.6%・中小企業25.4%(14.2pt差)と差が開いた。新しいデジタルツールやeラーニングの導入には、一定の資金や人的コストを要することから、他項目に比べて規模による取組状況の差が顕著となった。


    実際に中小企業からは「DX対応のシステム構築やソフト購入費用が高すぎる。コストに見合う成果が発揮できるか疑問」(電力制御装置製造、東京都)という費用面の課題や、「デジタルツールは推進担当者だけでなく、一般社員も活用できなければ意味がないため導入に踏み切れない」(機械同部品製造修理、岩手県)という人材面の課題も聞かれた。


    規模別のリスキリング取組状況

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    従業員数1,000人超のリスキリング取組割合は7割超
    従業員数別にみると、規模に比例して取組割合も上昇した。1,000人超ではリスキリング取組割合は74.0%に達した一方、100人以下の取組割合は45.5%にとどまった。


    中小企業の声として、「中小企業の多くは目の前にある障害をクリアすることが第一であり、10年後20年後を見据えた人材育成は難しい。大企業のように経営に余裕があり、人材をつなぎとめられるのであれば教育も良いが、せっかくお金と時間をかけて育成しても、スキルを身につけた後に転職してしまったら、と考えると二の足を踏んでしまう」(一般貨物自動車運送業、福島県)という課題認識も聞かれた。


    従業員数別のリスキリング取組状況

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  3. 業種別のリスキリング取組状況

    3-1.取組割合上位は「広告関連」、「情報サービス」
    リスキリング取組割合の上位3業種は、「広告関連」69.2%、「情報サービス」67.5%、「金融」62.1%であった。同業種の企業からは、「DX事業を主軸にした事業部を作り投資を行っている」(ソフト受託開発、大阪府)、「画面共有による指導が一番効果があると考え、システム化、クラウド化によるレベル向上を毎年進めている」(ソフト受託開発、福岡県)などの声があがった。


    下位3業種は、「娯楽サービス」34.2%、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」38.6%、「メンテナンス・警備・検査」39.2%であった。同業種の企業からは、「リスキリングは必要に迫られた段階で検討。DX推進は現在考えられる以上の費用対効果が見込まれた場合に検討」(ガラス繊維・同製品製造業、福島県)、「自社のビジネス形態に適応するDX推進方法を相談できるところが解らない」(一般機械修理業、神奈川県)など、DX推進の課題もともに聞かれた。


    リスキリング取組割合の上位・下位業種

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    3-2.取組内容別では、「従業員のデジタルスキルの把握、可視化」は「広告関連」、「DX、デジタル化に関連した資格取得の推奨、支援」は「情報サービス」が上位
    リスキリングの取組内容ごとに取組割合上位の業種をみると顕著な特徴がみられた。「従業員のデジタルスキルの把握、可視化」の取組内容では「広告関連」が51.4%と全業種で最も高く、2位の「精密機械、医療機械・器具製造」44.1%と大きな開きがあった。


    「DX、デジタル化に関連した資格取得の推奨、支援」の取組内容では「情報サービス」が42.9%と全業種で最も高かった。基本情報技術者などの国家資格取得が業務と密接に関連していることが背景にある。


    また、経営層が自ら学び実践する姿勢を示す「経営層による新しいスキルの学習、把握」や、従業員が新しい仕事に就く際に何を学べば良いかを示す「経営層から従業員に学習が必要なスキルを伝達」では、いずれも「旅館・ホテル」、「飲食店」が上位に並び、他の取組内容との違いが際立った。


    リスキリング取組内容別・取組割合の上位業種(回答数50社以上の業種を対象)

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  4. まとめ

    本調査の結果、DX推進企業のリスキリング取組割合は81.8%に上り、DXとリスキリング取組状況の関係性が浮き彫りとなった。リスキリングは目的が重要であり、業務と結びつき、改善や新たな価値創出につながる取り組みが理想といわれる。DX推進に積極的な大企業や情報サービス業などでは、新しいデジタルツールの学習、eラーニングの活用、DX関連資格の取得支援などの具体的な取り組みが進んでいる。政府が掲げる、人への投資、労働移動の円滑化、所得の増加が進展するには、大企業だけでなく中小企業や幅広い業種でのリスキリング推進が欠かせない。人手不足の環境下では特にDXなどの専門人材が逼迫しており、外部からの人材登用は容易ではない。企業においては、在職従業員の世代や役割などを限定せず、業務変革とそれに関わるリスキリングを同時に進めていくことが重要となろう。


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