2022年のIPO動向

新規上場、前年比はリーマン・ショック以来の減少率も
件数は過去15年で4番目
~ 「赤字上場」、「プラットフォーム事業」が目立つ ~

2022年の世界の新規株式公開(IPO)社数は前年から大きく減少した。ロシアのウクライナ侵攻など地政学上の不確実性や世界的な金融引き締めなどによる金融環境の悪化が主な原因だと考えられる。日本国内においても、2022年12月単月のIPO社数は25社で前年同月比7社減となった。


そこで、帝国データバンクは、企業概要データベース「COSMOS2」(約147万社収録)などを用いて2022年の国内IPO市場の動向について集計・分析した。


  1. IPO社数は91社と前年から大幅減。前年の反動や各国中銀の金融引き締め響く

    2022年のIPO社数は91社と、リーマン・ショック前の2006年以来最多だった前年の125社から34社減少した。減少の割合は27.2%となり、リーマン・ショック後以来の落ち込み幅になった。


    世界的に金融緩和が行われていた前年の反動のほか、ロシアのウクライナ侵攻や円安の急速な進行、各国の中央銀行の金融引き締めによる海外機関投資家の供給減少および株価の低調が主な原因だと考えられる。そうしたなか、上場承認を取り消した企業は7社と前年(3社)より倍増した。


    ただし、IPO社数は2020年(93社)や2019年(86社)と同レベルであり、例年並みの水準に戻ったと言える。実際、リーマン・ショック後の15年間でみると4番目に多い水準となった。


    また、12月28日時点においてIPOで上場した90社のうち初値が公開価格を上回ったのは71社だった。全体に占める割合は78.9%となり、前年(82.4%)より3.5ポイント減少した。


    IPO社数・株価推移(1990〜2022年)

    sp2022122901.png

  2. 8割近くが「東証グロース」に上場。赤字上場の割合は前年を大幅に上回る

    市場別にみると、高い成長可能性が期待される、市場再編以前の東証マザーズを含めた「東証グロース」が70社で、全体に占める割合は前年(74.4%)より2.5ポイント増の76.9%となった。


    また、経常損益が赤字の企業は23社だった。赤字上場が認められる東証グロース市場における割合は32.9%となり、前年(21.5%、20社)を11.4ポイント上回っている。投資家は赤字ではあるが、内容を見極めたうえで、成長性を重視する傾向が強まっている。

    2022年の市場別IPO企業割合

    D779FBA5-25B2-4E6F-9825-B2FDB86BA913.jpeg

  3. テック企業が引き続きけん引。「プラットフォーム事業」も目立つ

    業界別では、『サービス』が前年比9.5ポイント増の70.3%と突出して高かった。一方、『製造』(6.6%)は同3.8ポイント減、『卸売』(4.4%) は同3.6ポイント減となった。


    業界別IPO企業割合

    sp2022122903.png


    さらに細かく業種別にみると、「ソフト受託開発」や「パッケージソフト」、「情報提供サービス」を含む『情報サービス』が22社(全体の24.2%)で引き続きトップとなった。DX(デジタルトランスフォーメーション)計画策定からクラウドによる効果創出まで一貫したITサービスを提供している日本ビジネスシステムズ(株)(5036、東証スタンダード上場)や、ライブ配信コミュニケーションプラットフォームの企画、開発、運営を手がけるモイ(株)(5031、東証グロース上場)などが含まれる。


    次いで、デジタル技術を活用したコンタクトセンター・BPOサービスなどを提供しているビーウィズ(株)など『その他サービス』が19社(同20.9%)で続いた。


    また、フリーランスを活用したコンサルティング・システム開発支援などを手がけるINTLOOP(株)(9556、東証グロース上場)といった経営コンサルタント業などを含む『専門サービス』は9社(同9.9%)だった。


    総じて、デジタルおよびITテクノロジーを活用するいわゆる「テック企業」の新規上場が引き続きけん引している。また、「GAFAM(グーグル、アップル、メタ(旧称フェイスブック)、アマゾン、マイクロソフト)」に代表される“プラットフォーム事業”を手がける企業は18社と2割近くにのぼり、全体に占める割合は前年より上昇した。その他にも、企業のDX推進を支援する企業が複数あった。


    業種別IPO企業割合(構成比5%以上)

    sp2022122904.png


  4. 設立から上場までの期間、前年より2.3年短縮。社長平均年齢は50代前半の傾向続く

    2022年のIPO企業の設立から上場までの期間は平均「16.5年」で、前年(18.8年)から2.3年短縮した。その一因として、設立から事業化・商品化までの期間が比較的短いIT関連企業の割合が大きくなった一方、ある程度の時間を要する製造業の割合が小さくなったことが考えられる。

    他方、IPO企業社長の平均年齢は、全国の社長平均年齢を10歳近く下回る水準で推移してきた。2022年にIPOを行った企業の社長の平均年齢は51.2歳と前年(50.3歳)から0.9歳上昇した。年代別にみると、「40代」が最も多く全体の33.0%を占めた。


    IPO企業社長平均年齢の推移

    sp2022122905.png


  5. まとめ

    2022年のIPO社数は前年から34社減の91社となった。減少の割合は27.2%となりリーマン・ショック以来の落ち込み幅になったものの、件数はリーマン・ショック後の15年間で4番目に多い。


    市場別では、8割近くが「東証グロース」に上場。なかでも、赤字上場の割合は前年から増加しており、投資家は赤字ではあるが内容を見極めたうえで、成長性を重視する傾向が強まっている。業界別では、『サービス』が70.3%と突出して高かった。一方、『製造』や『卸売』 は減少となった。


    なかでも、企業のDX推進を支援する企業が複数みられた。地方人財を活用したDX推進支援などを手がける(株)BTM(5247、東証グロース上場)からは、「地方出身の人財や情報において機会の格差があることが地方活性化の足かせとなっていると実感。自社の事業で地方に機会を提供して格差をなくしたい。上場することで企業と求職者から信頼を得て、より安定的に事業を展開していき、地方の活性化により貢献していきたい。上場してから日が浅いが、知名度が高まったおかげか今まで連絡がなかったところからお問い合わせをいただくようになった」といった声が聞かれた。


    また、“プラットフォーム事業”を手がける企業は18社にのぼる。資産運用プラットフォーム事業などを手がけるクリアル(株)(2998、東証グロース上場)からは、「上場により、クラウドファンディングを活用した不動産ファンドオンラインマーケットCREALの知名度が飛躍的に向上し、会員数の増加や物件調達力の増強に大きく貢献した。また会社としても、顧客や取引先からの信頼度が高まり、取引が以前より円滑にできるようになったことに加え、取引先の幅も広がった」といった声が聞かれた。


    また、ファッションレンタルサービスを提供する(株)エアークローゼット(9557、東証グロース上場)からは、「市況の悪化によって資金調達額は想定を大きく下回ってしまった。しかし、コロナ禍で影響を受けたアパレル業界が機運を高めていくには最良のタイミングで、長期的な事業の成長および信頼の獲得を目的に上場を決意した。今後は現状の女性向けサービスの拡大に加え、メンズ等の他セグメントへの参入、物流プラットフォームの横展開により成長を図っていきたい」と意気込む。
    各国中央銀行が金融引き締めを行っているなか、地政学上の不確実性の高まりなども相まって、2023年も投資マネーの勢いの弱さは引き続き懸念される。しかし、上場を目指す企業も依然として多く、IPO企業数は例年並みの水準となることが予想される。



    【内容に関する問い合わせ先 】
    株式会社帝国データバンク 情報統括部
    担当:石井 ヤニサ、旭 海太郎
    TEL:03-5919-9343
    E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
    リリース資料以外の集計・分析については、お問い合わせ下さい(一部有料の場合もございます)。











このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。報道目的以外の利用につきましては、著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。